長編
□逃げる貴女と追う私
1ページ/6ページ
軍なんてところにいるから上官に従うのも盾になるのも仕方ないことだって思っ
ていた。
貴女に会うまでは…
---------------
逃げる貴女
と
追う私
----------------
「情報は?」
「ありません。」
簡潔な問いかけに簡潔に返ってくる答え。その部屋の主ロイ=マスタングはため息
を吐き、目の前の副官リザ=ホークアイを見つめた。
リザはなお続けて言った。
「顔写真は疎か名前や年齢、生年月日すら不明。抹消されているかトップシーク
レットの恐れがあります」
彼女の言葉が意味することは所謂、今から行くところは未知なる領域であるとい
うことのみ。
リザの前方にいる軍の官僚のみが座ることが許される椅子に座っている男、ロイ=
マスタングは深いため息をついた。
「まぁいい。野望の邪魔となるならなぎ倒せばいいだけだ。」
そう。たったそれだけだ。
……………………………………
「なんでこんなことに!」
さっきの決心からしばらく経ったころ、その知らせは部屋にいるもの全ての頭を
抱えさせた。
嘆いても今更遅いことくらい承知している。しかし嘆かずにはいられないのは、
己の余裕からか幼さからなのか。
「将軍に挨拶もせずに出て来ちゃいましたね。大佐。」
ひよこ頭の部下が茶化すように言ったが緊急自体だ。それで嫌みを言うような上
司だったら私直々にその椅子から引きずり落としてやるさ。とは口には出さずに
心の底にしまった。
私たちを悩ませた知らせ
それは、トレインジャックの上、駅で立てこもりをしたらしい。トレインジャッ
クくらいだったら警察の仕事だから我々の出る幕ではない。軍の官僚が乗ってれ
ば話は別だがな。しかし警察で手に負えない場合は治安維持を目的として軍を動
かさなければならない。
しかも、交通の中心、いや、この国の中心であるセントラル駅で立てこもりをさ
れたら大打撃だ。早々に解決しなければならない。
憂鬱なロイを含め部下の乗った黒塗りの軍の車両がセントラル駅に雪崩れ込み、
整列なんかする間もなく扉が開き次々に降りてくる。
かったるそうに欠伸を一つついたロイは駆け寄って来た憲兵に挨拶をすると状況
を聞く。
「立てこもりをしている犯人集団は白の団。1305イースト出発1430セントラル到
着の列車をジャックしたのち、セントラル到着後ホームに立てこもり人質50人前
後、死傷者の確認は出来ていません。」
一息つく間もなく憲兵は状況報告をした。それだけでもどんだけこの状況が緊迫
したものなのかが伺えるとロイは今日何回目になるかわからないため息をついた
。
「只今よりここの指揮権は私に移る。」
いつものように、そういつものようにロイは憲兵にそういった。
中央司令部にはほとんどの官僚がいるが現場に出てくる将軍はいない。否、見た
ことがない。そして、応援要請を聞いたのはロイだ。ならばロイがその場の最高
指揮官になるはずだった。しかし、憲兵はきょとんとした顔をしたあとにロイに
驚くべきことを告げた。
「マスタング大佐の前に将軍がいらして既に将軍の指揮下に入っております。」
「どちらの将軍だ?」
眉を潜めるのをお得意のポーカーフェイスでカバーして足を進めてその将軍を探
すロイだが、見つからなかった。それに憲兵以外に自分の部下しか軍のものは見
当たらない。
しかし、憲兵の次のセリフにはさすがのリザさえも固い表情を崩してしまった。
「将軍でしたらもうホームの中です。」
『はぁ!!!!?』