「秋、行けー!!」

コートに響く声。
思わず声の主にチラリと視線を向けると、ほぼ同時に目の前の相手の意識がボールから逸れるのがわかった。
その隙をついて横を擦り抜けようと勢いよく前へ踏み出した。

「うおっ」

そう声を出して慌てて手を伸ばしてきたが間に合わない。
そのまま相手を抜いたと思った瞬間、その向こうに新たな人影が見えて、スピードを落として体勢を整えた。
勢いで抜き去ってしまえたら楽なのだが、今度の相手はそんなに甘くない。

「来たね、直也。」
「抜かせないよ」
「上等。」

直也の表情は、穏やかな口調とは裏腹な挑戦的な笑顔。
つられるように口の端を持ち上げてドリブルを続けているボールに再び意識を集中させた。



直也と対峙してしばらくすると、いつの間にか3on3だった勝負が直接対決に変わっていた。
本日の対戦成績は4勝5敗。
この勝負に勝てば五分だ。
赤く染まり始めた空の下、ふと上げた視線の先に丸い時計が目に入った。
その一瞬で左手の下からボールの感触がなくなり、そのまま手は空を掻く。

「あ〜」

思わず声を上げると、既に直也はゴールを決めていた。

「秋、隙ができてた。時間?」
「ごめん。タイムリミットだ」

時刻は既に5時を回っていて、すぐにもあたりは暗闇に包まれるだろう。
しかも夜には薬の引き取りの客も来る予定だと座木に何度も言われていた。

「今日も負け越しか…」

ボヤキながら苦笑すると、直也もクスリと笑ってボールを投げてきた。

「秋、またやればいいよ」
「絶対だからね。約束。」
「うん。約束。」

直也の言葉に頷きながらボールを投げ返すと、パシンという小気味のいい音を立てて、直也の手の中に収まった。

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