【GAMES&COMICS】Novel!

□傾奇者が通る【完結】
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「あの、先程は本当に有り難う御座いました。ええと・・・」
「俺は慶次。前田慶次ってんだ」
「慶次さん、是非、何かお礼を・・・」
「そんなにかしこまらなくてもいいって。言ったろ?女を守るのが男の役目なんだって。
あぁいう迷惑を掛けようとしか思っちゃいない野郎どもなんて、拳骨で殴られるのが相応ってもんさ」

慶次は、そう言って豪快に笑った。
対称的に、女性は困った顔を浮かべて、
「そうは言っても助けていただいた御恩を無下には出来ません!」
と少々語気を荒げて言った。
そんな彼女の姿を見て、しかし調子は崩さずに言った。
「じゃあさ、君の名前を教えてくれるかい?」
「あっ・・・!申し遅れました!柚夜、と申します」
「ゆずやちゃんかぁ。いい名前だね。じゃあ柚夜ちゃん。俺からの頼みは、そんなに他人行儀にしないで、馴れ馴れしいくらいに接して欲しいってことかな。
常識なんかに縛られちゃ駄目だ。人を慕い、んでもって自由に暮らせる事こそが本当の人間ってもんだ」
「慶次さん・・・」
慶次の言葉の後半は、まるで皆に聞かせているかの様な口振りだった。

柚夜は、慶次の人柄に触れ、またその懐の深さを知り、お願いされた通りに振る舞ってみようと思った。
これまでその様な振る舞いをしたことは無かったけれど。
慶次の明るさは、そんな不安をも掻き消したのだった。



「んじゃ、俺はそろそろ行くとするかな」
「そんな、行ってしまわれるのですか?」
もう随分と沢山の話をした頃。
慶次が徐に立ち上がると、柚夜は心底残念そうに問いかけた。

「ああ、目的地なんてもんは無いけどな。ま、生きてりゃまた逢えるさ。
困った時には俺の名前を出しな。ここにゃ色々と世話を焼いてくれる人も大勢・・・」
「くすくす、慶次さん、まるで私のお母さんみたい」
「そうか?じゃあ今日から俺は柚夜のおかんだな!」
慶次がそう言うと、二人揃って笑っていた。




笑い声は、遠くの空に、京の都の喧騒に、吸い込まれ、かき消され。




柚夜は今日も青空を見上げる。
何処とも知れぬ、傾奇者を慕って。
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