最も偉大な発明家は誰か?

□Please blame me.
1ページ/1ページ





 泣き叫ぶ声の直後に衝撃音がした。通話はそれでも途切れなかったが、タイヤの音だけを残して静寂に包まれた。
 俺の名前を呼ぶ声が耳にこびりついている。

 まさか奴らがこんなにも早く動き出すとは……!


『発信元は分かるか!?』
「今調べてる!」
「クソッ、アーシーズの帰国は早すぎたか……?」
「仕方ねぇだろ、向こうは向こうで問題が山積みなんだ!」


 NEST隊員の間で怒号が飛び交う。一刻も早く場所を特定し、民間人を救出しなければならないからだ。あの女は巻き込まれてしまっただけの無害な人間。普通に生きていればこんな目には遭っていなかったのに。

 だが、理由はそれだけじゃない。
 これはディセプティコンを始末する絶好のチャンス。この機会を逃せばまた長い追いかけっこをやる羽目になるかもしれないんだ。


 水無月咲涼に思い入れはない。偶然戦闘を見られてしまっただけの関係だ。ましてや向こうは、俺があの黒いトランスフォーマーだとは露ほども思っていないだろう。

 しかし今あの女が死んだら寝覚めが悪い。ディセプティコンの脅威から守るためにわざわざ車を出したのに、その日のうちに連れ去られるなんて情けないにもほどがある。

 これは俺の責任だ。油断しすぎていた。助けてやらなければ。


『アイアンハイド!』


 慌てた様子でやってきたのはブルーのシボレー・ボルトとシルバーのコルベット。俺と共に日本にやってきた若い連中だ。

 その勢いのままにロボットモードに移行したふたりは『俺達も連れて行け!』と開口一番に声を張り上げた。


『人手が必要だろ!?』


 もちろん連れて行くつもりだった。敵の総数が分からない以上、戦力を出し惜しんではいられない。


『彼女に何かあったら……!』


 想像したくないと言った様子で言葉尻をすぼめたジョルト。物腰は柔らかいが、コイツもかなり血気盛んだ。しかしその様子が今は全く見られない。……気になるが、気にしてもいられない状況だ。


『準備はできたか?』
「あぁ、いつでも行けるぞ!」


 なら出動だ。

 発信地のデータを貰い即座にトップキックへ変形した俺は、若い連中と共に駆け出した。







 発信地には壊れたスマホだけが残っていた。ここから近い所にコンビニの袋があったから、帰り道に襲われたってとこだろう。

 それ以外に物はない。

 ただ、ディセプティコンが動き回った跡は残っている。この狭い道では俺達トランスフォーマーの体は窮屈だ。塀や木に当たって壊すことなんてざらにある。

 とはいえ、その破壊の痕跡もこの辺りだけ。どこに向かったかまでは……。


「あのー、警察かなんかですか?」


 不意に上から若い男の声が聞こえた。どうやら近くの一軒家の住人のようだ。二階のベランダから顔を覗かせている。

 仲間の一人が一歩前に出た。人間で日本語を話せるのはアイツだけだ。ビークルモードの俺達が対応するわけにもいかない。


「えぇ、そうです。さきほどこの辺りで騒ぎがあったと通報を受けまして」
「そうなんですね。いや、実はさっき女の人の声で『助けて!』って聞こえて。ガシャンガシャン変な音も聞こえるし、なんか怖くて……」


 それだ。まさにその情報が欲しかった!
 若い男はさらに続けた。


「かと思えばいきなり静かになるしさ。覗いてみたら銀色の車が向こうに走っていったんですよ。女の人は居ねぇし、これって誘拐……なんですかね……」


 男の指差す方は、市街地を抜けると工場が多く建ち並ぶ一帯だったはず。その中のどこかに隠れている可能性が高い。


 会話を切り上げさせて工場地帯に向かう。稼働しているものも少なくはない。ここで戦闘を起こせば被害は大きくなってしまうだろう。

 それは避けたい。俺達は地球を守るために戦っている。地球を守るということは、人類や他の動物も守るということだ。

 特にこの日本って国は安全管理やら何やらは厳しいと聞く。銃すら所持できない国だ、それなりに平和なんだろう。
 そこで謎の工場破壊なんて起きれば、トランスフォーマーの存在が世界に知れ渡るのは必至。


 俺としちゃあバレてもバレなくてもどうでもいい。だがトランスフォーマーという金属の生き物は、ひ弱な地球人には歓迎されないだろうな。


『クソ、どこに居る……!』


 工場地帯は広い。図体がデカかろうと隠れる場所はいくらでもある。

 ディセプティコンは必ず一発で仕留める。被害は最小限になるように。水無月咲涼は生きて帰す。


 捜索を続ける俺の元に、一つの連絡が入った。


『《こちらサイドスワイプ。ディセップらしき車を見つけた。人間の反応もある。咲涼かは不明だが──ッ! クソッ!》』
『サイドスワイプ! どうした!』


 ブツッと通信が途切れた。気付かれたんだ。
 直後に送られてきた座標。ここから近い。

 ドン、ドン、と発砲するような音が聞こえる。サイドスワイプも強い奴だ、不安はない。だが相手が誰かによっては……急がなくては。





次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ