最も偉大な発明家は誰か?

□すごいでしょ、ヒューマンモード。
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 しばらく走ると大きな建物に着いた。この辺にいる間はこの建物を使っているそうだ。中は倉庫のように広く、天井がすごく高い。どこかに繋がる扉が三つほどある。


『まずは医務室に向かえ。ジョルトが手当てしてくれるだろう』
「はい……」


 いつの間にか他のトランスフォーマーや車はなくなっていて、黒いひとと私だけが残っていた。
 何とか車から降りると扉の一つからジョルトが現れた。青い目、青い髪。昼間見たときと変わらない。


「歩けますか?」
「うん、歩くだけなら、どうにか」


 全身がめちゃくちゃ痛いけど、耐えられないほどじゃない。足はそれほどぶつけなかったみたいだし。


「ベッドに横になってください。骨は折れてないけど、酷い箇所は冷やしておかないと」


 医務室はそう遠くなかった。言われた通り備え付けられたベッドに寝っ転がって、部屋の中をきょろきょろ見回す。

 軍人相手の医務室だからか、色んな薬の瓶が置いてある。学生時代の保健室にはこんなになかったんじゃないかな。包帯の量もすごいし。


「咲涼、これを肘の所に。これは太もも」
「うん」
「今からサイドスワイプも来ると言ってます、いいですか?」
「サイドスワイプ? うん、もちろん!」


 氷嚢を渡したと思ったら、消毒液と絆創膏を持ってきて、私の顔に優しく触れる。地面に転がされたときに切り傷ができてたみたい。
 手当てしてくれるジョルトの手際の良さは、まるでいつもやっているみたいだった。


「ジョルトってお医者さんなの?」
「まぁ、一応。ラチェットっていう先生が居て、俺は助手なんです。今回日本に来たのは俺だけ。ラチェットはアメリカに残ってるんですよ」
「へぇ……じゃあ、皆のこと診てるんだ」
「そ。こんなに薬があっても使う機会は少ないですけどね」


 そうなんだ。意外と怪我することはないのかな? 戦う以上傷がつくことは多いだろうけど……。


「咲涼!」
「サイドスワイプ!」


 勢いよく医務室に滑り込んできたサイドスワイプ。私の手を握って子犬のような顔をする。


「大丈夫か? 俺がもっと早く駆けつけてれば……」
「大丈夫だよ、心配しないで。オートボットのひとが助けてくれたから」


 後でお礼言わなきゃ、と呟くと、何故かサイドスワイプが「ふふん」と自慢げな顔をした。サイドスワイプ、手が冷たいね。寒いのかな? 真夏だけど……。


「何でサイドスワイプがそんな顔するの?」
「だって……へへ、まぁ後で教えてやるからさ」
「気になる! ジョルトは何でか分かる?」
「分かりますよ」


 えー! 何で私だけ仲間外れにするの!


「教えてよ、ケチ!」
「うーん、ここじゃ狭いよな?」
「あぁ、天井をぶち抜くだろうな」


 何の話? 天井がどうなるって?


「しょうがない。言葉だけで信じてもらえるか分かんねぇけど……実は俺、トランスフォーマーなんだ」
「ん?」


 サイドスワイプは……トランスフォーマーには見えない。どこからどう見ても人間だ。髪の毛はサラサラ、肌はもちもち。がっしりとした筋肉は服の上からでも分かる。

 困惑しながらジョルトの方を見ると、彼は頷いた。


「そして俺もね。さっき工場でオートボットが三名居たでしょ? シルバーはサイドスワイプ、ブルーは俺なんですよ」
「どう、いう……え? トランスフォーマーって人間にもなれるの……?」


 いや、そういえば……私を廃工場に連れて行ったディセプティコンは、最初は人間の形だった。顔も体も歩き方も違和感なんてなかった。
 でも人間の形から、金属剥き出しの本来の姿に変形したよね?

 トランスフォーマーは車に擬態するけど、人の姿にもなれるんだ。サイドスワイプとジョルトも……。


「ヒューマンモードと言って、ラチェットが開発したんです。もちろん俺も手伝ったけどね!」
「すっごいね! 普段はあんな大きいのに、人間になれるなんて! じゃあ、黒いひともなれるの?」
「黒いひと……あぁ、もちろん! 今度見せてもらえばいいさ。新鮮味はないだろうけどな」


 サイドスワイプの言葉に疑問符を浮かべた。新鮮味?


「……あ! そういえば、サイドスワイプが助けてくれたんだね! 剣を持ってたの、サイドスワイプでしょ?」
「そ。あれが俺のロボットモードなんだ。わりとイカしてるだろ?」


 うん、確かにかっこいい。スマートな感じ。人間の姿でもイケメンだもんね。非の打ち所がない。

 ……そっか、だから“もっと早く駆けつけてれば”って言ってたんだ。最初に来てくれたのはサイドスワイプだし、気にしなくていいのに。


「助けに来てくれてありがとう、サイドスワイプ」
「当たり前だろ、咲涼とは仲良くしたいしな」
「ほんと? 嬉しい」


 私、あんまり友達居ないから、例え異種族でも仲良くしてくれるひとが居たらすごく嬉しい。
 仕事して帰って寝るだけの毎日ってほんと疲れちゃう。家に居ても一人だし、かと言って職場の人と気の置けない仲ってわけでもないし。だけど何か話せる人が居るだけで全然違うんだよね!


「サイドスワイプ、あまり咲涼とベタベタするな」
「お? 嫉妬か? 可愛いね〜ジョルトくんよ」
「うるさいぞ!」
「ははっ! ジョルトも仲良くしようね!」


 仲良くって言っても、ここにお世話になる間少し話し相手になってもらうことしかできないかもしれないけど……それだけでも十分楽しい思い出になるだろう。






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