幸運は勇敢な者を好む。

□目が回る程の急展開。
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「いや、会えよ」



食事の席で、轟くんに連絡先を貰ったが、連絡はしないし会ったりもしない、とリーダーに話したところ、何言ってんだこいつという目で見られた。


「ヒーロー様から直々に電話番号貰ったんだろ、利用しねぇ手はねぇ。スパイしてこい」



私にそんな器用なことできるわけない!特に轟くんは何考えてるか分かんないし!なんか怖いし!



「個性使えよ、いっつも使ってんだろ」
「そうですけど……」



私の個性はアイコンタクト。目と目を合わせることで"それとなく"操ることができる。はっきりと「あれをしろ」などと命令することはできないが、私と目が合った相手は無意識のうちに私の願いを汲み取って、自然とその動作をしてくれるのだ。

強制力はあまりない。相手の意思が強いと効かなかったり。正確性もイマイチだ。例えば「オレンジジュースが欲しい」と思っていてもリンゴジュースを持ってくるとか。


しかし、今では目を合わせることで心を読むことができるようになった。



「リーダーも知ってますよね、個性使うとき目の色変わっちゃうこと。ヒーローって目ざといんですよ」
「何も会ってすぐ個性使えなんて言ってねぇよ。何日もかけて友情でもなんでも築けばいいだろ、同級生なんだったら」


できるだろうか、そんなこと。轟くんがどんな人なのか正直よく知らないけれど、仲良くなったからって何でも話すわけはない。そんな仲になるには何年もかかるのでは……。

そもそも轟くんのパーソナルスペースは広そうだ。私なんかじゃ踏み入れない。



「とにかく、ショートに近付け。ハニートラップでも何でもしろ。……お前には無理か?色気がないもんな」
「最っ低!」






数日後、記された電話番号に連絡をした。轟くんは思いのほかすぐに出てくれて、「明日はオフだから飯に行こう」と誘われてしまった。そんな急展開な。

リーダーには『これは命令だ、やらねぇなら家から出てけ』と脅されていたので断るわけにもいかず、夜ご飯を共にすることになった。



やってきたのはオシャレなレストラン。見た目とは裏腹に意外とリーズナブルらしい。初めて来た。すごい。



「ありがとう、誘ってくれて」
「あぁ」


轟くんはグラスの水を1口飲んだ。その動作すらカッコイイ。思わず見とれてしまう。本当はワインを飲みたいけど、車で来ているから我慢するそうだ。



「轟くんは、こういうところ結構来るの?」
「たまにな」
「すごいねぇ。私、ワインも初めて飲んだかも……」


お酒自体、全然飲まない。リーダーはオジサンだからかなりの頻度で飲むが、私はまだまだお酒の美味しさが理解できなかった。ビールなんか苦くてとてもじゃないけど無理。ノンアルコールなら喜んで。あれはもうジュースみたいなものだから。


それぞれ頼んだものが運ばれてきて、他愛のない話をしながら食を進めた。



「思ってたんだけど、何で誘ってくれたの?わたし、轟くんとそんなに仲良くなかったでしょ」
「……そうだったか?」
「そうだよ!だって轟くんは私と住む世界が違ったし……今もだけど」



輝かしいヒーローと比べては全てがくすんで見えてしまう。どんな仕事も必要ではあるけど、やっぱりヒーローは違うよね。私もヒーローになれたらなぁ。今更なんだけど。


「じゃあ、これから同じ世界に住めばいいだろ」
「無理だよ、だって私は……」


敵なんだから、と言いかけ、慌てて口をつぐむ。ただの一般市民だからさ、と誤魔化してワインを飲んだ。あーやっぱりこんなもの飲むんじゃなかった。酔いが回ってきてる……気がする。



「今、轟くんとこうやって過ごしてるのも夢みたいだし」



そうだ、私の連絡先も渡しておこう。轟くんから連絡をくれた方が都合もつきやすい。私は基本的に暇だから。

持っていたメモ紙に電話番号とメールアドレス、LINEのIDを書いていく。メールや電話をするより、LINEの方が簡単だ。



「これ、私の連絡先。轟くんの都合がいいときにでも」
「毎日でもいいのか」
「え」
「毎日、話してもいいのか」
「いい、けど……」



なんか、恋人みたいじゃない?それ。

さすがに口には出せなかった。だけどこう思うのは当然のことだよね……だって恋人って、そういうことするでしょ。私は交際経験がないのでハッキリとは言えないが。


「轟くんが苦じゃなければ」
「そうか」




轟くんが送ってくれる、というので、お言葉に甘えることにした。轟くん、運転できるんだなぁ。かっこいい。私も免許は持ってるけどペーパードライバーだから……。


轟くんの車はやけに静かで、見た目もかっこよかったし、かなりいい車なのでは。その助手席に座らせてもらえるなんて、かなり凄いことなのでは。


悶々と考え事をしているうちに、気付けば頼んでいた最寄り駅近くに着いていて。送ってくれた轟くんにお礼を言って、車をおりた。


「水無月」


わざわざ窓を開けてまで呼び止めてきた轟くん。なに?と聞くと、少しだけ笑って、


「またな」


と言った。






数年ぶりに読み直していたら、轟くんが当然のように飲酒運転していたので修正しました。飲酒運転ダメ、絶対。
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