ひどい病気には思い切った処置を。

□束の間の逃亡劇。
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『メガトロン……!』


 最大の敵の登場に、オプティマスの目は強く見開かれる。あぁ、なんて、タイミングの悪い。


「メガトロンさん! 今、オプティマスは記憶が混乱してるみたいなんですっ!」
『何だと?』
「NESTのことも多分、覚えてなくて……!」


 だから当然、ディセプティコンが今は仲間になっているってことも……知らない。


『その人間は貴様の仲間だったのか』


 オプティマスはエナジーソードを出す。オレンジに光るその武器を生で見るのは初めてだ。こんなにも、恐ろしいなんて。


『面倒な……』


 メガトロンさんは心底嫌そうな声を出した。
 片手で私を持っている以上、応戦するにはかなり不利だ。
 そもそも相手は本気でかかってくるだろう。……となると、どちらかが死ぬまで終わらない戦いになってしまう。それはダメだ。


「逃げて!」
『分かっている!』


 ビークルモードに変形しながら私を乗せたメガトロンさんは、廊下を制限速度やルールを全て無視して全力疾走した。
 もちろんオプティマスも同様にビークルモードで追いかけてくる。それはもう、とんでもないスピードで。


「どうしよう、どうしよう……」
『オートボットの連中は呼んだ! ひとまず時間を稼ぐしかないだろうが!』


 でも、基地の中で逃げ回るのも限界がある。こんな速度で走っていれば事故が起こるのも確実。かといって戦えば建物などに大きな被害が出る。

 早く、早く来て! 誰でもいいからッ!


「……あっ!」


 強く祈っていたそのとき、前方からシルバーの車両が近付いてくるのが見えた。それは少し小柄で、私達とすれ違うと即座にトランスフォームしオプティマスとの間に立ち塞がった。


『止まれ、オプティマス!』
「ジャズ……!」


 オプティマスはピータービルトのまま急停止した。メガトロンさんはその様子を見て、ジャズのやや後方に止まる。
 徐に変形していくオプティマス。武器こそ出さないものの、ジャズに対して苛立ちを隠せない様子が見えた。


『何故止める? 見た目こそ違うが……ジャズだろう? そこに居る奴はメガトロンだぞ!』
『分かってる、分かってるさ。だけどな、ディセプティコンをぶちのめさなくて良くなったんだよ』
『何を言っているんだ……?』


 ジャズの言うことは多少聞く耳を持ってくれたようだった。メガトロンさんは何かあればすぐ走り出せるようビークルモードのまま様子を見守った。

 ジャズはこれまでの経緯を説明した。
 NESTのことやディセプティコンのこと、私のことは……職員、とだけ。恋人だなんて言ってもそれこそ信じてもらえないだろうし、それがいいんだろう。


『そんな話を信じろと? まさかとは思うがジャズ、ディセプティコンに……』
『おいおいおい! 勘弁してくれ! 俺はアンタの副官だぜ? その可能性は万に一つもない』


 オプティマスはとても困惑しているようで、まともな返事はなかった。
 そりゃあそうだろう、ディセプティコンとの対立があったから地球に来たのに、戦わなくていいだなんて。


『だが、私は奴を倒さねば……』


 言いかけたオプティマス。しかしそこへ黄緑のレスキュー車が舞い込んできた。


『オプティマス!』
『ラチェット……?』
『ひとまず落ち着いているようだな……ジャズ、君のおかげか』
『本当にとりあえずだけどな』


 着実に増えていくオートボット。けれどその誰もが今のオプティマスの記憶とは全く違う容姿らしく、彼の顔がどんどん曇っていく。


『一体、私に何が起こっている……?』

『……どうやら二十年分くらいの記憶がぶっ飛んでるらしいんだ』
『何だって? どうしてそんなことが……』


 小声で話し合うふたり。オプティマスはそんなふたりを気にする余裕はないようで、苦しげに顔をしかめた。
 そしてゆっくりと、こちらを見る。


『……オプティマス?』


 ジャズの呼びかけに何も答えない。


『メガトロンは敵だ。倒さなくて良いなど、そんな都合のいい話はありはしない!』
『プライムめッ……!』


 メガトロンさんが悪態をつき走り出す──よりも先に、ラチェットさんの拳がオプティマスの右頬を容赦なく殴った。

 不意をつかれて繰り出されたそのパンチによろめき倒れ込んだ彼は、気絶はしなかったものの意識はやや混濁しているみたいだった。


「オプティマス!? 大丈夫!?」
『ラチェット、今お前本気で……』
『本気でなければ彼は止められんよ』


 メガトロンさんから下りて駆け寄る。パンチがクリーンヒットした右頬はわずかに歪んでいて、オプティマスは瞬きを繰り返してどうにか意識を保とうとしているのが分かった。

 ややしばらくすると落ち着いてきたのか、呻き声をあげながら起き上がる。
 思わずラチェットさんの後ろに隠れた。


『……うぅ……お……』


 オプティマスは何度か首を振る。そのままラチェットさんやジャズ、いつの間にかロボットモードで近くに来たメガトロンさん、そして私を見て、不思議そうな顔をした。


『何故、みんなしてこんな所に……? 私は一体……?』


 困惑している彼をよそにラチェットさんを見上げると、私の視線に気付いた先生がこちらを見た。
 ラチェット先生はおどけるように首を傾げてこう言った。


『ショック療法だ』




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