ジョジョの奇妙な冒険
□行き場のない部屋
1ページ/1ページ
「スタンド攻撃を受けちまったみてぇだな」
彼は壁を叩いて呟いた。
「俺のスタープラチナでも壊れねぇ」
私は置いてあったソファの上で体育座りをしていた。自分でも震えているのが分かって、ぎゅっと膝を抱える。
さっきまで私と彼…空条承太郎は学校に居た。
私達はクラスメイトでもないし仲良くもない。偶然居合わせただけで、1度だって話したこともない。
が、何故かこうして、見知らぬ密室に閉じ込められている。
空条くん曰く『スタンド攻撃』らしいけど、そのスタンドってのが私には分からない。
空条くんは『ここに居る』と言うが、残念ながら私には見えず、触れもしないし、特別な能力、としか解釈出来なかった。
「人間を閉じ込めるスタンド…か」
やれやれ、と呟きベッドに寝転んだ空条くん。諦めたのか、疲れたのか。
「……く、空条くん、どうするの、これから」
この部屋は快適だ。生活に必要なものは何でも揃ってる。理屈はどうあれいつの間にか食べ物も出てくる。
けれどそれは閉じ込められているという前提がなければの話。
こんな訳の分からない空間で、こんな怖い人と一緒に過ごすなんてごめんだ。
「さぁな」
「いっ、一生ここから出られないの?」
空条くんは少し悩んで、「出られるだろうが、俺の力じゃどうしようもねぇ」と言った。
いつになるかも分からない、とも。
「それまで、ここで生活するの?」
「そうなるな」
あっけらかんとした様子の彼とは対照的に、自分でも目が泳いでるのが分かる私。
だって、こんな所で生活するなんて、本当に勘弁して、むりだよ。
「水無月」
「なん、で、名前知ってるの…」
「ンなことはどうでもいいだろう」
起き上がって近付いてきた。じりじり後ずさっていくも、壁にぶつかって離れられない。
「あの、空条くん」
「この状況、好都合だぜ、俺は」
「な、なに言ってるの」
手首を掴んで無理やり私を立たせた。視線が交わる。普段なら、その目はとても綺麗だ、なんて思うのかも。
「お前に逃げ場はない。俺が何をしようと邪魔はされない。最高じゃあないか?」
「え…あ……や……」
彼は楽しんでいるんだ。閉じ込められている今を。逆に利用してしまおうと。そう思ってるんだ。
「わ、私なんかやめた方がいいよ…っ…」
「お前だからだ」
俺は見てたんだ、ずっと。水無月の髪は綺麗だ。友人と話しているときの笑顔は愛らしい。好物を食べているときの無防備な表情もいい。
「だが、今こうして俺に怯えている顔も、そそるじゃあねぇか」
──行き場のない部屋。
(救いの手はどこにもない。)
.