ジョジョの奇妙な冒険
□今日は何の日でしょーか?
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「仗助くん、好きです」
何の脈絡もなしに告げた私に、仗助くんは何度か瞬きをした。近くに座っていた億泰くんは欠伸をして、あまり興味はなさそう。
隣の部屋には仗助くんのお母さん、朋子さんが居るから大きな声では言えなかったけれど、ちゃんと聞こえていたらしく、「それ、どういうこと、だ?」と聞き返してきた。
どう、と言われても。
「そのまんまの意味だよ」
察しの悪い人じゃあないんだから、分かるよね?
もちろん、異性として、一人の男性として好きだ、と言ったつもりだ。
それに嘘はないが、彼がどう受け取るかは別の問題となる。
「……俺はよォ、咲涼のこと、好きじゃあねェぜ。なんなら嫌いって言ってもいいくらいだ」
途中だったゲームを再開するため、テレビ画面に向き直った仗助くん。
ちらりと億泰くんを見れば、出されたクッキーを食すばかりで、全く見向きもしない。なんだこいつ。
今日はエイプリルフールだ。嘘をついてもいい日。色々ルールがあるが、割と「それもエイプリルフールの嘘でしょ?」と言われていたりして、実際のところは謎。
けれどまぁ、真偽は別としてルールがあるなら守るに越したことは無い。
ます、午前中にしか嘘をつけない。
午後からはネタばらしをする時間だそうだ。
そして、その日ついた嘘は、その年は実現することはない。分かりやすく言うなら、「恋人が出来た」と嘘を付けば、もう諦めなければならない。
無論、諸説あり。
「……それは傷つく」
先程も述べた通り、私の気持ちは本当だ。あくまで今日は嘘をついていい日であって、嘘だけを言う日ではないから良いと思う。
しかし、仗助くんは分からない。
登下校も一緒にしてるし、億泰くんも含めこうやって遊んだりもするけど、心の内では嫌いだったかもしれない。
嫌いな奴とわざわざ遊ぶとは思えないが、可哀想だと同情している可能性も……充分高い。
仗助くんは優しいから。
「……っていうか、さっきの嘘だし」
本気にしたの?仗助くんもまだまだだね。なんて思ってもないことを言って、億泰くんがトイレへ行った隙にクッキーを奪う。
「今日はエイプリルフールだよ」
「わかってるよ、馬鹿にすんな」
お前だって、ルールを忘れちゃあいねぇか?
そう言われて、別に忘れてなんかないよ、と返す。そう難しいものではないが、今日という日を利用するために調べたのだ。忘れるわけはない。
「嘘、ってよォ、午前中しかつけねェんだろ?もう午後になっちまってるから、嘘はつけねェ」
時計を見れば、確かに正午をほんの少し過ぎていた。10時くらいから仗助くんの家にお邪魔してるから、2時間経つのか。早いな。
「俺は、好きだぜ、咲涼のこと。こりゃあ嘘じゃねぇ。さっきのは嘘だけどよ」
でも、咲涼は嘘なんだろ?
「うそだよ」
好きだというのは嘘ではない。けれど、その後に「さっきのは嘘だ」と言ったのは嘘だ。
「私も好きなの。本当に」
「くそ、紛らわしいんだよっ」
頭をぐちゃぐちゃに撫でられ、すこし痛い。
「付きあってくれるよな?」
「もちろん! ……あ、でも、仗助くんはモテるし、私のことなんて嫌いになって……」
他の人のところに行かない?
そう言おうと思ったけど、すぐに遮られてしまう。
「オイオイ、忘れてんのか?」
──今日は何の日でしょーか?
(今年ついた嘘は、今年いっぱい実現しないんだぜ)
(今年だけでしょう?)
(来年も同じ嘘ついてやるよ)
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