ジョジョの奇妙な冒険

□どうして今更そんなこと言うの。
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死後の世界。想像よりもずっと穏やかで安心した。死んでまでツライ思いはしたくない。

深呼吸をすれば花の香りがふわりとして、でも周りに花はない。あるのは目の前の川と、その先に戻ることのできない懐かしい風景。


そして背後には果てのない白い空間。奥には山々があるようなきがするし、街並みが広がっているような気もする。



「来るのが早いよ。まだ数日も経ってないじゃない」


彼が座る木の影は涼しそうで、けれどきっと温かい。川を渡った先にも生命があるということだろう。

初めて来た時には涙を流してしまうくらい、それには感動した。



「馬鹿と一緒に居ると感染するってことさ」



私は彼の最期を知らない。死んだ者は生者の様子なんて分からないから。いや、きっと分かるんだと思う。

けど、ここはあまりにも近過ぎるんだと思う。ほんの数メートルしかない川を境に生と死が分かたれているだけだもの。



「変わったんだね」



彼の顔には広範囲に火傷の痕があって、とても痛々しかった。見てるこっちが苦しいくらい。当の本人はあまり気にはしていないみたい。



「そうだな」


らしくねぇことをしたもんだ。


彼は軽く鼻で笑って顔を覆った。なんだか震えているような気がして、声が震えているような気がして。

形兆は優しいよ、なんて言おうとすれば掠れた声しか出なかった。震えているのは私じゃないか。



「俺を恨んでいるか」



何のことかはすぐに分かった。どうせ私の死因だ。あの謎の弓矢のこと。才能だとか何だとか訳が分からなかったけど。

彼にしては下らないことを聞くものだ。彼はいつだって自分が正しくて後悔だってしない。

それこそらしくないじゃないか。



「そんなの。私は聞きたいことがあったの。だから待ってただけ」
「聞きたいことだと?」
「……形兆にとっての私、って、なんなの」


意を決して問いかけてみれば、下らないな、と呟いて空を見上げた。私にとっては下らなくなんてない。

つられて空を見ると、こんなところにも太陽の光は降り注いでいて。なんて優しい世界なのだろうと、心が満たされた。



「その問いかけに対する答えじゃあないが、あえて言うなら……そうだな」



別に俺は文学が好きなわけでもねぇが、と続け、私に視線を向けた。



「月が綺麗だな」





──どうして今更そんなこと言うの。

(もう私達は終わってしまったのに。
これからなんて、ないのに。あんまりだわ。)






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