ジョジョの奇妙な冒険
□愛のために死ぬことは出来ない。
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真っ暗だ。何も見えない。手を動かす度に金属の音がして、その手に伝わる重さからも銃を手放すことはなかったのだと分かった。近くからは息遣い。私以外にも誰か居る。当然と言えば当然だが。
「ジョルノ? 居る?」
「えぇ、居ますよ」
面倒だ、とでも言いたげな声で彼は返した。確かに面倒だ。敵地であるこのビルで視界で奪われた。その上で仲間は分散されて、奴らはホームで悠々としていることであろう。まさに私達は多勢に無勢、いくらなんでも不利な状況。
思わず溜息がでちゃうような夜。月明かりも今日はお疲れ様、弱々しいね。
「どうする?」
「さぁ。とりあえず、まぁ」
頭を叩けばイイ話、ですよね。
わずかな光を反射して輝くのが見え、ゴールド・エクスペリエンスが動き出す。
「大胆だね」
「貴女も大概ですよね」
木が育ち、微かにうめき声が聞こえた。次々と倒されているのであろう敵達の気配はあっと言う間に消えて、輝きもジョルノの所へ帰ってきた。
私は考える前に行動へと移してしまうだけで、本能的に動いてしまうだけで、別に大胆だってわけじゃない。
自分で言うのもおかしいが、どちらかと言えば無鉄砲。
「なにぼーっとしてるんです。ほら、早く行きますよ」
「ブチャラティ達はどこかな」
「それが分からないから探すんでしょ」
ごもっとも。
ジョルノは私より年下のはずなのに私よりも大人で、落ち着いてるしとても紳士。
さりげなくイケメン、というか。
「はぐれてしまっては困ります、お手をどうぞ、咲涼」
「本当に紳士だわ」
暗闇に目が慣れてきて、大体の様子は掴める。けれど、やっぱり怖い。いつ敵が飛び出してくるかも分からない。
「わッ!?」
「咲涼ッ!」
ジョルノと繋いでいる手とは逆の手を引かれ、小さな一室に連れ込まれた。
ランプで少し明るくなっていて、離れてしまった温もりを求めるように手を伸ばしたけど空を切った。
誰かに首や体を押さえつけられる。不覚にも敵に捕まってしまったようだ。
「ジョルノ・ジョバァーナ、動くな、この女を殺すぞ」
駆け寄ろうとしたジョルノにキツく言い放つ男。彼ならこんな奴一瞬でやっつけてしまえるはずだけど、素直に聞いていて、早く助けてくれと願うばかりだった。
「俺がお前を殺してやる……」
男は私を捕まえたままジョルノに近づき、ナイフをジョルノの首にあてがった。少しでも動けば切れて真紅のそれが流れ出ることだろう。
ジョルノは全く動かず、目の前の敵を見据えた。やれるものならやってみろ。受けて立とうじゃあないか。
きっとそう思っているんじゃないだろうか。
「この女の代わりに死んでくれ、ジョルノ」
「残念だが断っておこう」
黄金の輝きが視界の端で動き出した。鈍い音が数回聞こえ、私はいつの間にかジョルノに抱きしめられていた。
どうにか振り向いてみると男が倒れている。流石といったところか。
「ありがとう、ジョルノ」
礼を言ったものの返事はない。
私の声を聞いていたのかどうかは知らないが、彼は呟いた。
「僕は愛のために生きている。だから」
──愛のために死ぬことはできない。
(大切な恋人のためにも、ね。)
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