ジョジョの奇妙な冒険
□気付かないなんて酷いですね。
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「お姉さん、どちらへ行かれるんですか?」
駅のベンチに座って汽車を待っていたときのこと。隣に腰を下ろした金髪の青年にそう問われた。
随分と丁寧なナンパだな、なんて思いもしたが、私なんかを狙う人は居ない。だから素直に答えた。
「知り合いに会いに行くの」
彼は興味を引かれたように「へぇ」と呟いた。
正確に言えば会いに行くのではない。会いたいから探しに行くのだ。
「私、一応恋人がいてね。年下なんだけど、もう、何年も会ってない」
どれくらい前だろうか。彼が十五歳で、私が十七歳のときだから、五年近く前になるかもしれない。
ある日突然連絡がつかなくなって、それからずっと、一度だって会っていない。ここまできてしまっては、もはや自然消滅したと言える。道ですれ違うこともないのだ。
もしかすると、イタリアには居なかったりして。いつだったか、別の国へ言ってみたいと呟いていたこともあったから。
「彼は私のことなんて覚えていないかも。新しい恋人も居るかも! ……いいえ、いるに決まってるわ」
ちょうど列車がやってきた。私は立ち上がって、金髪の青年に乗るのかどうか聞いた。彼は「そうですね、乗りましょうか」と言いさっさと歩き出す。列車内は自由席だから、今の今まで話していた私達は、まるで恋人かのように隣同士に座る。
「良ければ、その彼のことを教えていただけますか?」
「いいけど……面白い話じゃないよ」
「えぇ、構いませんよ」
じゃあ、少しだけ。
私は懐かしい数年前のことを思い出し、話し始める。
「彼は私の二つ下なんだけど、とっても大人で、本当に年下なのかな、って思うことも多かった。イタリアに住んではいるけど、日本人とイギリス人のハーフ、だったはずだわ。だからなのかな、軽さがないっていうか……とにかく男らしかった。
……ごめんなさい、イタリア人の貴方に言うことではないわね……」
「お気になさらず。僕には下心がありますから。事実ですよ」
輝くような笑顔。なんだか似ている気がした。でもこんな元気な笑顔は、あまり見せてくれなかったかもしれない。クールな人だもの。
「さぁ、続きを」
うながされるまま、また話し出す。
初デートは確かショッピングモールだ。学校終わりに寄ってちょっとした買い物をしたくらいだけど、とても楽しかった。
彼はプリンが好きみたいで、私はそれを買ってあげて。その後に寄ったアクセサリーショップでわざわざお礼を買ってくれた。天道虫のブローチだ。彼の服に同じようなものがついていて、つまりはお揃い。
嬉しくて嬉しくて!
「それがこれ。もしも彼が恋人と一緒にいる所に出くわしたら気まずいから、あんまり付けられないかなぁなんて思ったりもするんだけど……やっぱりお気に入りだから……」
「……とてもお似合いですよ」
「同じことを言うのね」
会いたい。もう好きだなんて言ってくれなくていいから。どうか一度だけでも。
溢れ出してしまった涙を拭っていたら、青年が顔を歪めた。もう泣かないで、大丈夫だから、お願いだから、泣かないで。
私よりも彼の方がツラそうな声色の青年を見上げると、少しだけ微笑んでくれた。
「名前を呼んで。貴女の恋人の名を」
「……ジョルノ」
久しく口にしていなかった。いつも想っていたのに。
なんだかとても恥ずかしくて、付き合い始めた頃みたいな、そんな気持ち。
ごめんなさい、泣いたりして。
そう言おうと思って少し視線をあげれば、見覚えのある、そして普段は目にしないものが見えた。
赤くて可愛い、天道虫。
「……はい、ジョルノです」
「うそ……」
「嘘じゃあないですよ」
──気付かないなんて酷いですね。
(酷いのはどっち? 何年も私を待たせたくせに!)