ジョジョの奇妙な冒険

□結論を述べるとするならば。
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スタンドに自我はあるのか? それはスタンド使いにとって半永久的な謎だろう。露伴のヤローが出くわしたとか言うチープ・トリックは自立型ということもあって自我があったといえばあっただろう。しかし例えば「明日は雨かな」と話しかけたところで「どうだろう、晴れるといいね」などと返ってくるかは分からない。そういった会話が出来てこそ自我と呼べるのではないか。

スタンドは基本的に本体の言うことを聞く。しかし制御が効かない場合は? 昨日まで俺の意思で動かしていたクレイジー・ダイヤモンドが今日突然暴れだしたら。それは自我の芽生えだろうか。


例えば、俺が密かに思いを寄せている女に対し、スタンドが急接近し始めたら。俺はできないのに、抱きしめるわ手を繋ぐわスキンシップが激しい。スタンドを通して柔らかい感覚を知る俺の気持ちを考えてくれ……。


「仗助くん?」
「なっ、なんだ?」
「どうしたの、大丈夫?」
「あぁ……大丈夫だぜ」


そう、と小さく呟いてジュースを飲んだ咲涼。あぐらをかいたクレイジー・ダイヤモンドの上に座り込んだ咲涼は、それはもう可愛くて。スタンドじゃなく、俺の方でやってくれないか。

いや、でもここに座られても俺だって健全な男子高校生なわけだし、危ないもんがある。かといって中途半端に感触を味わうのも生殺しだ。


どうすりゃあいいんだ、と悶々としていたら、咲涼の方からふわりと何かが飛んできた。俺の懐に飛び込んでくるもんだから思わず抱きしめる仕草をしてしまったが、それはスタンドだったので、俺が触ることはできなかった。

俺のような人型のスタンドではなく、鳥のような咲涼のスタンド。強いていえばフクロウに似ていて、羽根を広げると1メートルほどはあるだろう。

そいつは俺に顔を擦り付けて、満足そうにリラックスしていた。撫でてやりたい。だが俺には触れない。撫でるフリだけして、この悶々とした気持ちを解消しようとした。……やっぱフリじゃあ無理だ。



「……咲涼っ?」


いつの間にか隣に移動していた彼女は、どこか不機嫌そうだった。クレイジー・ダイヤモンドはどこにも居ない。


「スタンドじゃなく私を見て!」
「なっ……!」


心臓が跳ねた。バクバク言ってる。
どういう意味だ?俺にとって都合のいい解釈をしてもいいのか?


「先にスタンドを見てたのはお前だぜ」
「う……」


確かに、とでも言うような顔。咲涼は唸ってから、ゆっくり動き出す。これじゃあ、と言いかけたところで柔らかく重なった唇は、マシュマロを思い出させた。


「今は、仗助くんしか見てない、から……」
「好きだ」
「あー! 私が言おうとしたのに!」


なんで言っちゃうの! と怒る咲涼。嬉しくて嬉しくて、だらしなく笑う顔を隠したくて、ぎゅうと彼女を包み込んだ。その先にはクレイジー・ダイヤモンドがたたずんでいる。そいつは軽く首をかしげて微笑んだ後、ふわりと消えた。

微笑んだのは気のせいだろうか。いつだってアイツらは無表情だ。だが確かに今だけ、少し変わったようにも見える。いや、そんなことどうだっていいか。スタンドにだって表情くらいあるはずだ。



「あ」
「どうした?」


咲涼は目を輝かせた。そして「あの子、笑った!」と囁く。


「スタンドが?」
「そう! きっと私たちのこと、祝福してくれてるんだよ」
「……あぁ、そうかもな」


きっとそうだ。あいつは俺だが、俺じゃない。俺の精神力でありながら、あるいは。





──結論を述べるとすれば。


(あいつはきっと、俺に従ってくれているだけ、なのだ。)









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