最も偉大な発明家は誰か?

□危機一髪。
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ディセプティコンに連れられてきたのはどこかの廃工場だった。
錆びてボロボロの鉄骨が剥き出し。隙間から風が入り込んでくる。それに土というか、油というか……何だか変な臭いもする。
頑丈な造りをしているんだろうけど、いつ崩れてもおかしくない。


ディセプティコンは車のまま工場の片隅に止まった。中で私を縛り付けたまま、器用に変形して銃を突きつけてくる。



『時間はたっぷりあるが、俺の気は短いぞ。早く欠片の場所を吐くんだ』
「し、しりませんっ……」


本当に分からない。仮に私がその欠片を持っていたとしても、見た目を言ってくれなきゃ心当たりを思い出すことすらできない。

どうしよう。アイアンハイドに電話したけど、あの人はここに来てくれるだろうか。


──でも、人間が来たって、太刀打ちできるの?
こんな大きくて、こんな強そうな武器を持った奴に、人間なんかが勝てるの?


それなら黒いひとは……戦える? あの日初めて見た黒いトランスフォーマーは、とても強そうだった。あのひとなら倒せるんじゃないだろうか。


「ほんとうに、分からないんですっ……分かるならとっくに渡してます! たすけて……」


情けなく涙を流す。ディセプティコンは『役立たずめ……』と忌々しげに呟いた。直後、勢いよく変形し始め、私をその辺に放り投げて人のような形になった。


「いっ……ぅ、うぅっ!」


突然解放されて思考が追いつかない。硬い地面に叩きつけられて全身が痛む。無理やり体を起こして周りを見ると、銀のトランスフォーマーが二体に増えていた。


「……え……?」


ディセプティコンを隔てて奥に見えるのは、青い目のトランスフォーマー。足はローラースケートのようにタイヤになっていて、両腕に大きな剣がついている。


『お前が誘拐犯だろ! 咲涼を返してもらおうか!』


なんで、私の名前知って……。

そんな疑問は、大砲のような爆発音が聞こえて吹っ飛ばされた。

青い目の方がタイヤでくるりと回り、その勢いのまま剣で切りつける。ディセプティコンのうめき声が聞こえた。
よろめいたのも束の間、反撃に銃を何度も撃ち、剣から距離を取っていく。

そんな攻防が目の前で繰り広げられていた。トランスフォーマーの大きな体で。


『止まれ、ディセプティコン!』


また新しいトランスフォーマーが現れた。声のする方を見ると……黒いひとが居た。

腕は大きな砲台みたいで、たぶんあれを撃たれたら私は一瞬で消し炭になる。
ディセプティコンは剣と砲を突きつけられ、人間のように両手を上げた。


『俺達を相手に勝てると思うなよ』
『確かに、オートボットの戦士二人が相手なら分が悪いな』


オートボット……NESTに所属しているトランスフォーマー……良いひとたち。地球を守ってくれている、んだよね?


『お前達はどこで欠片のことを知った。なぜその女に辿りついた!』
『言うわけないだろ!』


ディセプティコンは剣と砲を振り払い私の方に駆けてくる。腰が抜けて立てない私は、ただそれが迫り来るのを見ることしかできない。

ここで死んじゃうのかな……なんて呑気に思ったとき。
ドン、と大きな音がして、ディセプティコンの体に穴が空き、バチバチとコードがショートするみたいな音が鳴り響いた。

ディセプティコンは倒れ込み、動かなくなった。その後ろでは黒いひとが砲台のような腕を構えて立っている。あのひとが、やっつけたのかな……?


『怪我はないか』
「は、い……」


黒いひとと銀色のひとが近付いてくる。大きい。さっきの奴とは違うって分かってるんだけど、やっぱりちょっと怖い。


『我々はオートボット。NESTのトランスフォーマーだ』
『なぁ、そんな自己紹介しなくていいんじゃねぇ? 咲涼だってある程度は分かってるだろうし』


このひと達は誰なんだろう。私の名前を知ってるのは、NESTだったら当然かもしれない。でも一度も会ったことがないのに何だか馴れ馴れしい。

いや。この感じ、どこかで……?


すると今度は青い車が勢いよく走り込んできた。ガシャンガシャンと変形したそれは私の近くで止まり『咲涼!』と声を上げる。


『無事ですか!? ……全身打撲していますね、戻って安静にさせないと』
「えっ、と……」


このひとも何となく知っている気がする。どうしてだろう。


『不思議そうな顔してるな! さては俺達が誰だか気になってるだろ?』


銀色のひとがしゃがみ込んで私の顔を覗いた。その顔を近くで見ると、どこか笑顔のような気がした。
意外と表情が分かりやすいんだ。


『おい、そんなのは後にしろ。まずは戻るぞ』
『ちぇっ』


黒いひと、青いひとが車の形になった。置いてかれる!


「ぁ、あのっ! 腰が抜けて、立てなくて……」
『あぁ、それなら……』


情けない声を出すと、銀色のひとがそっと持ち上げてくれた。そして黒い車の扉を器用に開けて乗せてくれる。


『おい、何で俺なんだ?』
『まぁまぁ、いいだろ』
『ちっ……』


不満気な舌打ちのあと、するするとシートベルトが掛けられた。


「Ironhide!」


少しすると軍人が何人かやってきた。みんなNESTの方のようで、トランスフォーマー達と英語で何か話している。


『ひとまずこれから俺達の駐在施設に向かう。アンタはそこでメディカルチェックを受けることになる』
「わかりました……」


何もかもが急すぎて、上手く考えられなくなってきた。

……さすがに疲れちゃったな。ゆっくり動き出したイカつい車のシートに全身を預け、目を閉じた。




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