最も偉大な発明家は誰か?

□余計なトラブルの原因、それは。
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「あー、ねぇ、二人とも。アイアンハイドさんってここに居るの?」
「もちろん。後で顔出すとは言ってた」
「そっか」


アイアンハイドさんは何回か顔を合わせてるから、ちょっと安心するんだよね。信じてもいいのかな〜って悩んでたくせに何言ってんだ、って感じなんだけどさ。でも、電話しないと助けは来なかった。
アイアンハイドさんが連絡先を登録してくれたおかげだ。

黒いひとも何となく安心する。何でだろう、初めて見たトランスフォーマーだからかな? いやそんな孵化してすぐの鳥みたいなことはないか。


「アイアンハイドが気になりますか?」
「えっ?」


道具を片付ける最中のジョルトの手が止まっている。こちらを真っ直ぐに見つめる目はずいぶん真剣だ。


「ちょっとだけね。NESTの人で話せる人は少ないから。だってみんな外人でしょ? 私は英語話せないしさ」


呪文みたいだよ、外国語なんて。学生時代は居眠りしてたわりに、社会人になって興味が湧いて、スマホアプリで勉強もしてみたけど……なかなか難しい。


「あんな鉄仮面の男より、俺達が話し相手になりますよ」
「鉄仮面! ははっ、まさしくって感じだ」
「サイドスワイプ、一々うるさいぞ。……アイアンハイドは日本での活動においては司令代理なので忙しい。それに比べて俺達は出動命令が無ければ大した仕事もありません」


ジョルト曰く、私の怪我は大事には至らないものの、しばらくは安静にしていなければならない。その間ここに居続けることになるから、暇なことも多いだろう。

そんなとき、アイアンハイドさんよりも自分達の方が都合がいい。
……とのこと。


「無愛想なアイアンハイドと話してもいいことはありませんよ」
「確かにちょっと怖い人だけど……」


そんなに悪い人じゃないと思うよ? えっと……仲間なんだよね?


「無愛想で悪かったな、ジョルト」
「げぇ」


声のした方を見るとアイアンハイドさんが腕を組んで立っていた。あからさまに嫌そうな顔をするジョルト。


「好き放題言ってくれたみたいだが」
「事実だろ。ご自慢のキャノン砲をぶちかましたいならどうぞ?」
「安い挑発だな、青二才。喧嘩なら後で買ってやる。水無月咲涼に話があるから二人とも出ていけ」
「はいはい。相手は病人だから手短にな。咲涼、また来ます」
「じゃあなー!」


元気に手を振って去っていくサイドスワイプ。可愛い。
ジョルトはアイアンハイドさんとバチバチ火花を散らした末に、私に笑顔を残して部屋を出た。仲悪いのかな……。

アイアンハイドさんは手近な椅子に座って、私の全身を軽く見回した。


「ひとまずは無事なようだな。致命的な怪我もない」
「はい、助けてもらったので……」
「……」


沈黙が流れる。なんか、気まずい。用があるからと医務室に来たのはアイアンハイドさんなのに、どうしたんだろう。


「あの、話って?」
「疲れてるようなら明日でも構わないが」
「大丈夫ですよ。それに、何の話か気になるし……」


こういうのは一回気になると寝れなくなってしまう。ただでさえ落ち着いて寝れそうにないっていうのに、そこに悩みの種まで置いていかれたら困る。


「なら端的に言う。話ってのはお前が狙われる原因についてだ」
「何か分かったんですか!?」


軽く頷いて、アイアンハイドさんは説明を始めてくれた。


「原因はストラップの石だと分かった」


え、あの地味な石? 思わず聞き返すと、彼は「そうだ」と頷いた。

あんなの、どこにでもありそうな石なのに。その辺の河原に行って手頃な石を見つけて、どうにかして削ったら似たようなストラップはいくらでも作れそう。
高そうに宝石にも見えないし……何なんだろう、あれ?


「あれはオールスパークの欠片だ」
「オール、スパーク……」


ディセプティコンが言ってた言葉を思い出した。“オールスパークの欠片はどこだ”……と。


「オールスパークはトランスフォーマーの生命の源だ。全ての金属生命体はオールスパークから生まれ、死ねばオールスパークに還る」


宗教的な思想……ではないんだよね。

トランスフォーマーの根源というか、成り立ちに関わるものなんだろう。生命の源であり、オールスパークから生まれるってことは、それがなければ種が終わる。


「トランスフォーマーの存続に、オールスパークは必要不可欠ってことですか?」
「あぁ」


地球の生き物は繁殖して増えていくけど、トランスフォーマーはそういうわけではないんだな。いまいち難しくて理解しきれないけれど、何となくは分かった。


「その欠片を、私が持ってたってことですか? だから狙われてるって?」
「そうだ」


どうして。私はあの石がそんな大層なものだとは知らなかった。ただ、占い師のお婆さんに渡されただけで……。

だったらあのお婆さんはどうしてオールスパークの欠片を持っていたのだろう。その日以来見かけていないから、今どこで何をしているのかは分からない。
トランスフォーマーに関係している人間なのか、はたまた本当におかしな占い師だったのか……私より、NESTの方が早く真相に辿りつけるだろう。


「お前がトランスフォーマーの戦闘を目撃した日に乗ったバスは、やはりディセプティコンだった。欠片を持っていることをどこかで知って確認に来たんだろう」


そう、だったんだ。全然気にしてなかった。いや、自分が乗ってるバスが宇宙人だなんて考えるわけもない。

確かにオールスパークは重要なものなんだろう。でも、人間の握り拳で包み込めるようなサイズの石で何ができるんだろう。トランスフォーマーは大きいし、あんなのじゃどうにもならないんじゃ……?


「あんな小さくても役に立つんですか?」
「あぁ、オールスパークの力はわずかに宿っているから、使い道はある。ディセプティコンに渡せば厄介だ」


……考えたくもない。

渡した欠片は今はまだこの建物に保存してあって、なるべく早いうちにアメリカの本部へ送るそうだ。


「だが奴らはまだお前が持っていると思っているようだ。……だから、今日と同じようなことがまた起こるだろう」
「そんな……」


あんなのに狙われてたら、命が何個あっても足りない。いつか本当に死んじゃう。
あー、なんか泣けてきた。私が何したって言うんだろ。前世で悪いことした?


「安心しろ、必ず守ってやる」


いつもの無愛想な態度、低くて単調な声。でも、それに反して力強くて真っ直ぐな青い瞳。

向こうは仕事だって、仕方なくやってるって分かってるのに、少し、ときめいた。





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