最も偉大な発明家は誰か?

□目覚めた朝。
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アイアンハイドさんは話が終わるとすぐに立ち去った。ここは安全だからゆっくり休むといい、と言い残して。

それと、スマホを返してくれた。道に投げ出されたスマホは画面が割れていたけど、まぁこれくらいなら気にならないかな。


私は一人の部屋でぼんやり天井を眺めた。明かりは消され、窓からわずかな光が入ってくる程度の明るさしかない。慣れないベッドでは眠りにつくのも時間がかかるだろう。


「こんなときどうしてたっけ……」


あぁ、スマホを見ていた。特に何をする訳でもないけど、それ以外にやることもないから。
スマホを見ながら適当に時間を潰して、半ば寝落ちするように眠りにつくのが毎日のことだ。

スマホの充電はあと半分。家に帰るまで持つだろうか。いつ帰れるかも分かんないし……。


「今日は色々あったなぁ」


明日も仕事なんだけど、行かせてもらえるかな。ジョルトは過保護そうだから止められそうだな。でも働かないと生きていけない。お金は必要なんだ。結婚して養ってもらえるなんて甘い考えは、私は持てない。

きっとアイアンハイドさんが車を出してくれる。いや、車でなくても行けるだろうか? 毎日のように同じパン屋にやってくるのだし、それほど遠くないはず。

でも、歩くのちょっとしんどいな。頼めば車に乗せてくれるはず……きっと。





目を覚ますと、部屋の中は太陽の光ですっかり明るくなっていた。疲労のせいで結構ぐっすり寝ちゃったみたい。


「よく寝た!」


ベッドを脱げ出して窓の外を眺める。……うーん、どこだ、ここ。
下では恐らくNESTの人だろう、屈強な男性達が走っていた。その中の一人がこちらに気付いて、にこやかに手を上げる。それを皮切りに皆こちらを見るから、かなり恥ずかしかったけど一応手は振り返しておいた。


「咲涼、やっと起きましたか」


ドアが開かれて、見慣れてきた格好のジョルトが姿を現す。


「おはよう、ジョルト」
「もうおはようって時間でもないですよ」


寝坊助さんですね、と笑うジョルト。うそぉ、そんなに? と疑いながら時計を確認したら昼の十一時だった。やだ、寝すぎ。


「ちょっと待って、仕事!」


無断欠勤……!
サッと顔が青くなるのを感じた。真面目に働いてたのに、とんでもないトラブルに巻き込まれたからって無断欠勤するなんて……。


「あぁ、それなら大丈夫ですよ」
「な、何で」
「スマホに電話が来たので、事故に遭い療養が必要だと伝えました。驚いていましたが納得はしてくれました」


良かったぁ……とりあえず、こっちの事情は職場に伝わってるんだ。迷惑かけちゃうけど……大丈夫かな。

元々あの店は人手が少ないから、私が抜けるだけでも結構大変だと思う。有名なチェーン店でもないし、人気店ってわけでもないし、近所の方が来てくれる程度のこじんまりとしたパン屋だけど……うーん、心配……。


「店主の方が、気にせずゆっくり休ませてくださいと言っていました。待っているとも」
「そっか……」


優しいな。店主のおじいさんは、いつも私や井上さんのことを気にかけてくれる。本当にありがたい。


「ですから、咲涼は体を労ること。無理に動かしてはいけませんよ」
「はい、分かりました!」


じと、と見られて慌ててベッドに座った。


「建物内なら自由に見回っていいそうです。見に行きますか?」
「えっ、いいの? 行く!」


ずっと医務室で寝てるのはつまんないもん。それに、体が痛いからって動かずに居たら鈍っちゃうから。


「まずは……食事ですね。お腹すいたでしょう?」


うん、と返事をする前にお腹がぐるぐる……と唸るように鳴った。恥ずかし!
ちょっと待っててくださいね、と笑いながらジョルトは医務室を出ていった。もしかしてご飯持ってきてくれるのかな。
しばらくすると、予想通り食器を乗せたトレイを持って帰ってきた。なんだかいい匂いがする!


「こんなボロ臭い建物にもキッチンはあるので、料理を作ることもあるんです。いつもいつも買って食べてるわけじゃないんですよ」


確かに毎回買って食べていたら出費がかさみそう。でも、パンやおにぎりを買ってサッと食べる方が楽なのは、まぁ楽だ。

料理はまず何を作るか考えて、材料を用意して、作って、最後に洗い物がある。全部合わせるとすごく大変。NESTの人達は毎日忙しいだろうから料理するのも一苦労じゃないかな。……料理担当の人が居るかもしれないけど。


「これ貰ってもいいの?」
「もちろん。咲涼にって持ってきたんだから」


トレイを受け取りスープに口をつける。コンソメスープだ。美味しい。いくらでも飲めそう。


「ジョルトは? ご飯」
「トランスフォーマーは人間の食べ物は摂取できないんです。まぁ機械だからね」
「そうなんだ……」


小麦アレルギーだからパンが食べれないんじゃなく、そもそも食物が駄目なんだ。
お腹すかないのかな? 機械とはいえ、トランスフォーマーは生命体なのに。


「俺達は何も摂取しなくても、何千年も生きていけます。心配要りませんよ」
「何千年!?」


トランスフォーマーが長生きだとはアイアンハイドさんから聞いてたけど、何千年も生きられるの? いや、ご飯を食べなくても何千年も生きられるんだから、ご飯を食べれば万は生きるんじゃない? というか、機械だから壊れることはあっても死ぬことはないのかも……?


「ジョルトって……何歳なの……?」
「うーん、秘密です」


たぶん、年数だけで言うとめちゃくちゃ歳上だ……!





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