最も偉大な発明家は誰か?

□こんな私に出来ること。
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『……あ、そうだ。咲涼、体の調子はどうですか?』
「だいぶいいよ。小走りならできる!」


いきなり始まったジョルトの検診に、足を揺らしながら答える。するとアイアンハイドがもう片方の手で私の頭をつついた。


『俺の手の上で暴れるな』
「暴れてないですー! でもほんとに元気だよ。もうそろそろ帰れるかな?」
『うん、そうだね。咲涼がそうしたいなら、俺達には止められないです』


お世話になりっぱなしは申し訳ない。巻き込まれたのはこっちだから、守ってもらって当然……と考えられるほど図々しくはないのだ。


「ちょっと考えてたことがあるんですけど……」


アイアンハイドの方を向くと、彼は何も答えなかったが視線だけで話をうながした。


「NESTの皆さんは、ディセプティコンを探しているんですよね?」
『あぁ、そうだ』
「それなら、私がお手伝いできると思うんです」


アイアンハイドは怪訝な顔をした。


「私は狙われてるんですよね。だったら、ディセプティコンはまた私の所に来るんじゃないですか? 家はバレてるみたいだし……」
『……囮にしろと言ってるのか!?』


まぁそういうことだ。それが一番手っ取り早く、効率がいい。ただの足手まといが居るよりは、その人間にも役割があった方がいいでしょ?


『そんな危険なことをやらせるわけないだろ!』
「でも役に立ちたいんです!」
『怖くないのか! 死ぬかもしれないんだぞッ!』


それは……当然怖い。だからって、死ぬかもしれないとは思わない。


「死なないですよ。守ってくれるんだもん」
『何……?』
「アイアンハイドが言ったんでしょ、“安心しろ、必ず守ってやる”って」


あれは、嘘だったんですか?

アイアンハイドは綺麗な瞳を細めた。まるで笑ってるみたいに。


『……あぁ、言った。間違いなく、俺がな』
「そうですよね? だから……死ぬかもしれないなんて思わないです」


ちょっと図々しくて、傲慢な言い方かもしれない。でも先に言ったのはアイアンハイドだもん、私はそれを信じる。


『いいだろう、その勇気を買ってやる』
『アイアンハイド! 駄目だ、民間人を巻き込むなんて!』
『水無月咲涼はとっくに巻き込まれている。無関係だった頃には戻れない』


そうなんだ。私はもうとっくに渦中に居る。何なら、みんなと出会うより前、オールスパークの欠片をお婆さんから貰ってしまったあの日から、巻き込まれていたんだよ。
色々と重要そうな秘密も教えられてしまったし、ディセプティコンをどうにかしない限りこれから先の人生にはずっと危険が着いて回る。


何より……こんな私も役に立てるんだと思えるんだ。

私は社会でちっぽけな存在だ。何十億人も居る中の小さな存在。特別何ができるわけじゃないし、才能とかもないし。いわゆるモブみたいなもの。居ても居なくても変わんない。
でも今は、私が居ることで日本を、もしかしたら世界を救っちゃうかもしれないんだよ! これってすっごいことじゃない?

まぁ、世界を救うなんてのは大袈裟だけど、そんな特別に私もなりたい。もちろん、これがすごくワガママで、身勝手なエゴだってことは分かってる。
たかがそんな承認欲求でこんなこと言い出すなんて、まともじゃない。


「……どうせ戻れないなら、とことん突き進んじゃうのがいいと思わない?」


さんにんの顔を見ながら笑うと、サイドスワイプは“やれやれ”って顔で腰を手を当て、ジョルトは絶句し、アイアンハイドは小さく笑った。


『本当に死んだら、どうするんですか』
「仕方ないよ、それでも」


人はいつか死ぬ。遅いか早いかってだけで。私は夢なんてないし、死ぬことができないから生きているだけ。生きる理由は特にないんだ。
世の中の人は、何のために生きてるかなんてみんな分かってないんじゃない? 生まれるのなんて親の都合なんだから。やりたいことを見つけてそれに進めるのって、ごくわずかな人達だけだろうし。


『仕方ない? そんなわけ……!』
「トランスフォーマーは長生きするから分からないかもしれないけど、人間は簡単に死んじゃうから……」
『そんなことはどうだっていいだろ。ディセプティコンに手出しはさせない』


自信満々な様子で言うアイアンハイド。武器のスペシャリストである彼が居れば、きっと大丈夫。そう思えた。


『っ……ハァ……分かりました。咲涼がそれでいいのなら、俺も納得します。でも、どうか無茶だけはしないで。俺は医者だから怪我を治すことはできるけど、死んだら治せない』
「うん、分かった。ありがとう、本当に……!」
『なに、心配要らねぇさ。武器のスペシャリストとその弟子が居るんだぜ? おまけに血気盛んなドクターまで居る』


ディセプティコンには怯えて寝てもらおうじゃねぇか!

そんな風に笑うサイドスワイプが末恐ろしく見える。トランスフォーマーはみんな好戦的なひと達ばっかりなんだろうか。全員が本気で戦争したら人類なんてすぐに滅びるんじゃない?
それをしない種族で良かった。


「みんな、よろしくお願いします」
『ふん、言われるまでもない』


うんうん。だってアイアンハイドには、“守ってやる”って発言の責任を取ってもらわなきゃ! そうでしょ?
信じてますからね!






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