最も偉大な発明家は誰か?

□愛情のこもった(?)美味しいおにぎり。
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「ソファは……アイアンハイドが寝るには狭いですよ」
「大して寝ないからいい」


夜になって、当然と言えば当然だけど寝る場所で揉めていた。
ベッドは一つだし、余分なお布団はないし、他に寝られる場所はソファくらい。ソファよりは大きい方のベッドを使うように言っても、アイアンハイドは「元々睡眠時間なんか大して必要じゃない」と言ってソファから動こうとしなかった。

寝ないって言っても、睡眠に近いことはするでしょ? 寝っ転がってゆっくりできた方がいい気がするけどなぁ。


「仮に俺がベッドを使うとして、お前はソファで寝るのか?」
「そうなりますね、私の方が小柄だし」
「家主が狭い方で寝てどうするんだ……そもそも他人をベッドに寝かせるのは嫌じゃないのか」
「うーん、そんなに……?」


もちろん誰でもいいわけじゃなくて、アイアンハイドは別に気にならないかな、っていう程度。サイドスワイプやジョルトでも大丈夫な気がする。


「お前は俺を信用しすぎだ」


小さく呟かれた言葉は耳が痛くなるほど言われたこと。もう聞こえないフリをした。


「俺はここに座ってるだけで十分だ。お前はベッドで寝てろ」
「はぁい」


頑ななアイアンハイド。大人しくベッドで寝ることにした。
テレビも電気も消して布団に潜ると、ようやく家に帰ってきたんだなぁ、と落ち着く。医務室のベッドも慣れてきた頃だったけど、何年も使っている愛用のベッドには勝てないよ。


「アイアンハイド、おやすみなさい」
「あぁ」


彼を盗み見すると、腕を組んで目を閉じていた。私も目を閉じて、壁の方を向いてクッションを抱きしめた。




目が覚めるとアイアンハイドの顔が真っ先に映った。びっくりして体が大きくびくつき、声すら出ずにクッションを強く抱く。


「ど、どうしたんですか」
「仕事に遅れるぞ」
「えっ」


慌てて時間を確認すると予定の起床時間より一時間も過ぎていた。うそ! 目覚ましかけてるはずなのに! こんなのどう頑張っても間に合わない!


「ご飯食べる時間ないよー!」


顔を洗って歯磨きして、別室で服を着替える。アイアンハイドはそのとき扉越しに「乗せてってやる」と言ってくれたのでお言葉に甘えることにした。一時間のロスは、もはや就業時間に間に合うかどうかさえ怪しい。

あーあ、朝ごはん食べられなかったらお腹すいちゃうな。しかも目の前には美味しそうなパンがあるわけだし。お昼はともかく朝はしっかり食べなきゃ力出ないよ。


「中でこれでも食ってろ」


服を着替え終わってリビングに戻ると、アイアンハイドがラップに包まれた何かをくれた。……おにぎり?


「これどうしたの?」
「……作ったんだよ、俺が」
「アイアンハイドが!?」


おにぎりとか作れるんだ……いや、確かに料理と言うには簡単なものだけど、力の強いトランスフォーマーにはわりと難儀だったんじゃないかな? ご飯なんて簡単に潰してしまえるだろうし。


「いいから鞄を持って靴を履け。この辺りじゃ変形できないから離れるぞ」


言われた通り鞄を引っ掴んでその中におにぎりを突っ込む。先に行ってしまった様子のアイアンハイドを家の鍵をかけて追いかけると、近所の公園についた。

公園と言っても規模はそれほど大きくない。遊具は小さくて少ないし錆だらけ。木が生い茂っていて野性味溢れる感じだ。しかも住宅街にありながら目につきづらい場所にあって、周りの建物のせいで日が当たりにくく薄暗い。

ここで子供が遊んでるところなんて見たことない。


「ここならいいだろう……」


アイアンハイドは周囲を確認して車に変形した。そしてドアを開けると小さく小さくクラクションを鳴らす。早く乗れってことだろう。

急いで乗り込むとドアは勝手に閉まりシートベルトも付けられた。車はそのまま走り出し、勤務先のパン屋の方へと向かう。


「すごいなぁ……」


さっきまで隣に立って話していたひとは、本当は車に変形できる宇宙人なんだから。何度考えてもすごい。

私は感心しながら鞄からおにぎりを取り出した。海苔のついていないシンプルなおにぎり。一口食べるとちょうどいい塩味が広がる。
ちょっと強めに握られてるけど、歯応えがあると思えばそれもいいアクセント……かもしれない。


「おいしい!」
『塩味の米だろ』


もー、何でそんなこと言うの!? ひどい。ほんとに美味しいのに。誰かが作ってくれたってだけで違う。


「他にも料理できるの?」
『多少だが。NESTの奴らに言われて作ることがあったからな。インターネットで検索すればレシピはいくらでも出てくる』


レシピがあるから作れるかっていうと、それはまた違う話じゃない? 料理って手際良く作るのが大事だし、下処理とかも必要だったりするし。

私なんかレシピがあっても難しいよ。大さじや小さじが面倒で、最終的に目分量で作るのがダメなんでしょうけど!


「あっ、ツナマヨ!」
『冷蔵庫に大したものがなかったからな、適当だ』


二個目のおにぎりの具はツナマヨ。嬉しいな。一個目はおかかだった。ただの塩むすびじゃないところが優しすぎる。

……っていうか冷蔵庫に大したものがないって何!?
一人暮らしなんてそんなもんでしょ! お金に余裕があるわけじゃないし、冷蔵庫も小さいし、あれこれ買うわけにはいかないんだから!

だから特売の日に、期限が長持ちして常温保存できるものをよく買う。お肉や野菜は冷凍して……そうやってどうにかやってるんです、私は!


「私だってお金持ちになりたいです……」
『……あー、何だ……悪かったな……』


ちょっと泣きそうになっていたら、アイアンハイドが狼狽えた様子で謝った。声が本当に申し訳なさそう。顔は見えないはずなのに簡単に想像できて、思わず笑ってしまった。

何が面白い、って詰め寄られちゃったけど。





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