最も偉大な発明家は誰か?

□以前とは違う暮らし。
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その日の夕方、私達はジョルトに乗って自宅に戻った。
……そう、私達、だ。


ソファに座る私の隣には、左腕をホルダーで吊り下げたアイアンハイドが居る。彼は私の視線に気付くとテレビからこちらへ目線を変えた。


「どうした」
「ううん、何でも」


そうか。と一言呟いたが、テレビの方を向こうとはしない。ここで目を逸らしたら負けな気がする!

……なんて思いながらも、彼の熱い視線に耐えきれなくなってバラエティ番組にシフトした。



「俺よりテレビの方が好きか」
「そっ……そういう言い方はずるいんじゃない!?」


勢いよくアイアンハイドの方を向くと彼は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。くやしい。どっちにしても負けたような感じ……!


「うぅ……! 腹立つ……!」
「怖いな。俺が何かしたか?」
「してる……! そこに居るだけでかっこいいんだもん……!」


思えば、アイアンハイドに勝とうというのが百万年早かったのかもしれない。多分、彼が何をしても惚れ直してしまうから。これじゃあちょっとした動作ですぐときめいちゃって心臓がもたない。


「今までもこうしてふたりで過ごしていたのにな」
「だって前は恋人じゃなかったし……!」


アイアンハイドも自宅にやって来たのは訳がある。というと大ごとな雰囲気があるが、実は大したことはなくって、ただラチェット先生が『どうせ日本に居る間は治療も進まないから、特別に外出許可を出そう』と言ってくれただけなのだ。

あのひとなりに気遣ってくれたのだと思う。私達が浅からぬ関係だと分かっているようだし、アメリカに帰るまでの間くらいは一緒に居させてやろうと考えたんじゃないかな。


ただ、アイアンハイドは安静に過ごすようにと厳しく言われている。

そのためにまずヒューマンモード以外に変形できないよう外部から強制ロックをかけた。それから、無理に動き回れないよう、あえて痛覚センサーをオンに。

数日経っているとはいえ、やっぱり痛みはまだ強いみたい。今みたいにじっとしていれば全然痛くないらしいんだけど……。


吊り下げられた腕を見つめていると、アイアンハイドは苦笑いをした。


「気にするな。この程度の痛みには慣れてる」
「慣れてても痛いのは嫌でしょ」


機械なら痛覚はなくてもいいんじゃない? なんて思ってしまうときもある。 でも、機械とは言え生命体。生きる上で痛みっていうのはすごく大切なんだと思う。
痛みがなければ怪我も病気も分からない。アイアンハイドの痛みが強くなれば、先生達に連絡するなり何なり対処ができる。

でも、痛みが感知できず、結果そのまま手遅れになったら……、……考えたくもない。


「これは、名誉の痛みってところだな」
「何それ!」
「ぅおっ! 痛ぇだろ、やめろっ」


こっちは心配してるっていうのに、気にした様子もなく微笑みながら言うのがちょっとだけムカついて、脇腹を軽ーくちょんちょんとつついた。

痛いと騒ぎながらも笑うから、私もつられて笑っちゃって……結局、アイアンハイドには勝てないんだよなぁ。


「あははっ!」
「笑うな、クソッ! 明日から仕事だろ、さっさと寝ろ!」
「はぁい」


確かに時間はもう遅い。早く寝て明日に備えないと。
私は何日ぶりかのベッドに潜った。


「……ごめん、痛かったでしょ」
「謝るくらいならするな」
「うん……ごめんね」


ちょっとしたおふざけのつもりだった。でも、やっぱり痛いのは良くない。

アイアンハイドはベッドサイドにしゃがみ込み、私の頬を撫でる。そうやって優しく触られるの、好きだよ。


「気にするな。多少痛みがある方が生きている実感が湧く」
「それ、あんまり慰めになってない」
「あ……? そ、そうか?」


私の言葉に慌てた様子の彼は、「何と言うか……お前と過ごすのは夢みたいってことでな……い、いや、だからと言って生きた心地がしないとか、んなわけでもなく……」と必死に弁明しようとしていた。

そんなにあたふたしなくてもいいのに。


「だから……あー……」
「……ぷっ……ふふ」


いよいよ言葉に詰まってきたアイアンハイド。あまり見ることのない姿に思わず吹き出してしまう。

私はアイアンハイドの手を握った。ちょっと冷たいけど、それが気持ちいい。


「今日は、一緒に寝なくてもいいの?」
「ン……」


壁際に寄ってスペースを開けた。でも、医務室のベッドより小さいから難しいかな。ぎゅうぎゅうになっちゃうかも。


「……良くはない」


アイアンハイドはベッドに横たわる。その間、安物のベッドがギシギシと悲鳴を上げていて内心ビクビクだったけど、とりあえず潰れることはなかった。


「おやすみ、アイアンハイド」
「あぁ……おやすみ」






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