最も偉大な発明家は誰か?

□理由なんてない、でどうでしょう?
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「そういう咲涼はどうして俺を好きになった?」
「え」


少し意地悪な笑顔でこちらを見るアイアンハイド。えぇと、と言い淀んであちこち視線を巡らせた。

好きなところは私だってたくさんある。数日前にそれを列挙して彼に白旗を挙げさせたのは記憶に新しい。だからと言ってどうしてと言われると、うーん、どうして……?


「最初ロボットモードを見たときはびっくりしたんだよね。見間違いかと思って!」
「そりゃあそうか」


アイアンハイドは、あそこに咲涼が居たことに俺もびっくりしたが、と何度か頷いた。だって規制かかってるだなんて知らなかったんだもん。バスだって普通に動いてたから。いや、バスはディセプティコンの擬態だったっけ……。


「ヒューマンモードは普通に怖かった」
「む……」


ぐうの音も出ないって感じの顔。コワモテで近寄り難い雰囲気があるっていうのは自覚があるみたい。それがいいところ……でもないけど、その、ほら、アイアンハイドって感じがするから! ね。いいと思うよ!

それに、わざわざ愛想振り撒くとか、やりたくないことやっても疲れるだけだから。


「私はそのままのアイアンハイドが好きだよ。怖かったのは最初だけ」
「ん。そうか」


柔らかい笑顔はどこか満足げ。
初めて会った頃はこんな笑顔を見ることになるとは思ってなかった。変な組織が来たな、変なことに巻き込まれたなってくらいの認識で、それから先どうなっていくのか全然想像できなかったから。

……思えば、アイアンハイドが店にやって来たときから気になってはいたのかも。だって目がすっごく綺麗で、顔もかっこよくて、誰もが憧れるような素敵な男性が居れば当然よ。

そんな男性がトランスフォーマーなんてエイリアンだったり、非現実的なことが続くと……まぁ、ちょっと怖いくらいはどうでも良くなるよね。


「でもどうしてって言われると難しいなぁ……助けてくれたから、とか?」
「それはサイドスワイプとジョルトも当てはまるだろう」


確かに。じゃあ……顔が好みだったとか! いや、違うか。怖い顔だって私が言ったもんね。

うーん。どうして、か。好きだって気付いた瞬間は覚えてる。バンブルビーに手伝ってもらってスーパーでたくさん買い込んだ日だ。その帰り道、みんなで色々話してたら、ふと。

あのときはこの気持ちを伝えることはできないって思ってたっけ。まさか恋人になっちゃうなんてね。


「……誰かを好きになるのに理由なんてない……ってことでどう?」
「はははっ! まぁいいか。今、おまえが俺を好きで居てくれるなら」
「ん……ふふ」


珍しく声を上げて笑っていた。私の頬を撫で、優しすぎるくらいの微笑みを浮かべながら。くすぐったいけど撫でられるのは好き。この歳になって誰かに撫でられることなんてそうそうないから、ちょっと恥ずかしいけど。


「咲涼」


アイアンハイドは甘い声で名前を呼んだ。なに、と聞くと返事の代わりに額にキスを落とされて、その次は目元、頬、と段々下りてくる。


「咲涼」
「なぁにっ」


唇の横にちゅ、とキスをされると、次を想像してしまってむっと口を閉じた。


「……何でそんな顔をする?」
「どんな顔?」
「怒っているような顔だ」


お、怒ってはいないんだけど、だって、唇の横にキスされたら次は絶対唇に来るでしょ。だからちゃんと口を閉じておかなきゃとキスしづらいかなと思って……。

そんな変な顔してたかな。


「……ふっ」


うーんうーんと唸っていたら、アイアンハイドは我慢できないって感じで吹き出した。また笑われた。いっつも笑う! 何もおかしいことなんてしてないのに!

抗議の視線を感じ取ったのか、彼はすぐさま「悪い」と囁いた。ほんとに思ってる?


「悪かった」
「ん……」


軽く唇を重ねられる。アイアンハイドはまるで、機嫌を直してくれと言ってるみたい。仕方ありません、直しましょう。……ちょっと、今チョロいって言ったのだれよ。


「キスしてると恋人って感じするね……」
「恋人だからな」


変なこと言うな、と笑われる。
私も変なこと言ってるなぁとは思う。でも、こうやってくっついてイチャイチャしていても、アイアンハイドと恋人だってことが夢みたいで実感湧かないの。いつになったら慣れるんだろう!


「現実味がなくって、常にふわふわした感じするんだよね」
「……現実味を出してみるか?」
「どうやって?」


アイアンハイドは何も答えなかった。その代わり私の唇を指先でなぞり、少し荒々しくキスをした。


「んむっ!」


いきなりでびっくりして、目を見開いてそれを受け入れる。この至近距離で見る彼の目は嘘みたいに輝いていて、きっと私の記憶の中でも光を放ち続けるんだろう、とぼんやり思った。

けど、そんな思考はすぐにどこかへ飛んでいく。


「あ……ん、ん……!?」


触れているだけだったキスは、アイアンハイドが舌を割り込んできたことで変貌した。

金属を感じさせない柔らかさで私の唇をこじ開けて、混乱する舌を絡め取る。ぢゅ、と軽く吸われると変な感じがしちゃって肩をびくっと震わせた。
逃げようと体を後ろに逸らすけど、アイアンハイドの大きな手が私の後頭部を押さえつけてしまったから無駄だった。

彼の鋭い目が胸をドキドキさせるから、ぎゅっと目をつぶって避けたくても、そうすると今度は深いキスに意識がいって頭がぐるぐる回っちゃう。


「ぁ……ぅぅ……! ん、……ふっ……」


もうむり! アイアンハイドの胸板を叩いて訴えると、彼はゆっくりと唇を離した。すごい笑顔だ。

対する私は、まぁ見るに堪えない顔をしているだろう。だってこんなキス、全然したことない。長いし、息続かないし、なんか、すごい、こう……へんなかんじ。


「現実味は出てきたか?」


分かるか! と叫びたくなったが、それを言うとまた唇を重ねられてしまいそうで、とにかく必死に頷いた。
彼は「そうか、残念だ」と呟いた。やっぱりまたするつもりだったんだ。危ない。

こんなの、何回もされてたら身が持たないよ……せめてもうちょっと手加減して……!
……でも、かなり……良かったかも。正直言うとね!






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