僕のヒーローアカデミア

□隣からのオーラが怖い。
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「ねぇ障子くん、明日一緒にどこか行こうよ」
「どこへ?」
「うーん……障子くんはどこ行きたい?」
「……水無月の行きたい所、だな」



今日は金曜日。諸事情で授業が午前中しかなかったので、ゆっくり話そうと思い、障子くんのお宅にお邪魔しているところだ。


お付き合いを始めてから、何度かお出かけをした。デートと言えるかは……かなり難しい。ちょっとした買い物に付き合ってもらっただけだもの。

だから明日こそデートらしいデートをしよう、と彼を誘ったわけだ。


「私の行きたい所、かぁ……」
「俺はどこでも構わない、水無月は行きたい所があるんじゃないのか」


行きたい所は、確かにある。だけど障子くんがそこに居るのは想像出来ない。似合わなくはないが。


「水族館……なんだけど……」
「……」


障子くんは目をパチパチさせる。
やっぱり嫌かな、勝手なイメージだけど水族館とか行かなそうだもんね……。


「やだ……?」
「……いや、行こう。いわゆる……デート、というやつ……だろう?」
「そ、そうです!」


学生らしいデートだ、と呟く彼。事実だし、私もそう思っていたけれど、彼からそれを聞くと何だか恥ずかしくなってきた。

障子くんもデートとか言うんだ……。


「明日、九時頃……駅前で集合、でどうだ?早いだろうか」
「ううん! 大丈夫!」


そろそろ遅くなりそうだ、ということで私は帰ることにした。障子くんが近くまで送ってくれて、本当に優しさを感じる。

明日はどんな格好をしよう、あんまり可愛すぎるのは浮いちゃうかな……。





そして翌日。ギリギリまで悩んでいたせいで、待ち合わせに間に合いそうにない! やばい!


「障子くん! ごめん! 遅くなっちゃった!」
「許さん」
「ひぃー!ごめんなさいっ!」
「……まぁいい、行くぞ」


そっと握られた手を握り返して、彼の隣を歩く。歩幅を合わせてくれる優しさに、いつもキュンときてしまうのだ。


電車で数駅の水族館。土曜日のわりにお客さんはあまり居ない。人がいっぱい居るのは嫌だからラッキーだ、と心の中でガッツポーズをした。


「時間はたっぷりとある。全体を回って見るか」
「うん! あとイルカショーとかも見たいな!」
「分かった、頃合いをみて行こう」


大きなサメ、クラゲ、小魚の群れなど、たくさんの生物を見た。小さいながらも触れるコーナーがあって、そこにいたヒトデを嫌というほど触ってきた。ナマコも居たけどさすがに勇気が出るはずもなく。


「ペンギン! かわいー!」


よちよちと歩くペンギンたちの散歩に遭遇。やけに早く歩く子が居たり、反対に遅かったり、個性豊かで本当に愛らしい。あとでストラップでも買おう。


「水無月、そろそろイルカショーだ」
「わ! こっちきたよ!」
「……水無月」
「……は、はい」
「イルカショー」


彼は少し強引に私を連れていく。怒らせてしまったのだろうか。私ばっかり楽しんで、彼は楽しくないのかもしれない。いや、絶対にそうだ。


「……ごめんね、楽しくないよね」


ショーが始まるまであと数分。座って待つ間、気まずさばかりが漂った。


「そんなことはない。……ただ、俺をないがしろにしていたのが気に食わなかっただけだ」
「し、嫉妬、でしょうか……」
「……解釈は任せよう」


思わず笑ってしまった。なんて可愛いのだろう。障子くんはペンギンに妬いていたのだ。否定しないってことはそういうことでしょう?


「私、障子くんのこと大好きだよ」
「……そうか」


「お待たせ致しました!ただいまよりイルカショーを始めたいと思います!」


可愛らしい声で鳴くイルカが現れ、フラフープくぐりやボール芸を披露する。私たちは後ろの方だから平気だったけど、前列は水しぶきが酷かった。

電車に乗るのにびしゃびしゃになったら困る。


「それではここでお客様の中から一人! お手伝い願いたいと思います! そうですねぇ……ではそこの彼女さん! こちらへ!」
「えっ私っ?」


とりあえず、呼ばれたので前に出る。水槽の近くに立たされて「そのままですよー、動かないでー」と謎の煽りを入れられる。

頬に冷たさを感じ、観客からは歓声が。


「イルカちゃんからのキスでした! ありがとうございました!」


席に戻るとすぐショーが終わった。皆が立つ中、彼は全く動かなかった。







──隣からのオーラが怖い。

(飼育員さん、キスするって先に言ってよ……。)








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