僕のヒーローアカデミア

□ありがとう、俺の個性!
1ページ/1ページ





「あの女の子、昨日も居たよな」
「そうだっけか?」


上鳴が校門の方を指さしながら言った。そこには背の低い可愛らしい女の子が、のぞき込むように立っていた。少なくともうちの生徒じゃない。制服を見る限り、ここから自転車で三十分ほどの所にある、普通科の高校のはずだ。上鳴が以前、制服が可愛くて女の子も可愛い、と騒いでいた気がする。コイツにとってはどんな女の子も可愛いと感じるのではないか、という疑問が生まれるのは否めない。


「誰か好きな人でも居るんじゃないのか」
「もしかして!」
「お前じゃないと思うなぁ!」
「なんだと! じゃあ瀬呂でもねぇな!」


そりゃ、まぁ、俺は女の子にモテるわけじゃねぇし、体育祭でも轟に瞬殺されただけで活躍もしてねぇ(目立ちはしたが)。峰田たちみたいに全面的に自分推しして女の子を我が物にしよう! なんて魂胆もないから、モテないことに関して気落ちすることもまたないけれど。


でもやっぱ、女の子に好かれるのはいいよなぁ。俺も轟みてぇにイケメンになりたかった、ほんと。俺の場合、せいぜい良き友達止まりだ。自分では誰とでも仲良くできる方だと思っているし、女子と話すことにも抵抗や違和感はないし、あっちから話しかけてくれることもあるし、だからこそ恋愛対象にならない。……と思う。


「あんな子に告白されてみてぇなぁ」
「上鳴は下心が見えすぎなんじゃねぇか?峰田もそうだけどさ」
「あいつと一緒にすんな!」
「いや、だいたい一緒だろ!」


女の子は、俺達が校門を過ぎる頃にも立ち続けていた。友人か、想い人か、誰かを探し続けるのだろう。


「……おい、あの子、後ろに居るぞ」


スマホの内カメラを鏡代わりに使っていた上鳴が囁いた。画面を覗くと、確かに小さく女の子が映っている。俺達と女の子の間には誰も居らず、俺達の前にも誰も居ない。つまり、俺か上鳴、どちらかに用がある、ということか?


「ワンチャンあるんじゃねぇの!?」
「いや、もしかしたらA組の誰かかもしんねぇだろ。俺達はクラスメイトだから、何か聞きに来るとか……」


十二分に有り得る。少し前にも他クラスの子に話しかけられたと思えば『砂糖くんはどこですか?』なんて。何で砂糖なんだ! と思ったが、ただお菓子作りを学びに行っただけだと知り、少し安堵した。いや、それはそれで色々と不安かもしれない。

だから、まぁ無い話じゃない。轟だって爆豪だって、何かと難はあれど顔が良いのだから。


「すみません」
「はい! 何ですか!?」


とうとうエンカウントした俺達と女の子。控えめな彼女と打って変わって食い気味な上鳴に、少し引いた。


「瀬呂さん、ですよね……?」
「はっ? 瀬呂?」
「そうですけど……えっと、俺に用?ですか?」


やっべ、声が裏返った。だって俺の名前が出るとは思ってねぇもん、仕方ないよな?


女の子は上鳴の方を見向きもせず、俺を見つめてこくりと頷いた。何で俺?名前はどこででも知ることはできるだろうが、俺に用なんて。


「突然すみません……体育祭、見てました。負けちゃいましたけど……とてもかっこよかったです」
「そう、ですかね?」


なんだか恥ずかしい。ボロ負けしたのに。情けなさすぎて小学生にもドンマイ! と言われてしまったくらいなのに。


「はい、誰よりも!」


強く答えた彼女は、おもむろに俺を指さした。突然何だ? と思ったのも束の間、彼女の指先の違和感……いや、既視感に気づく。


「私の個性もセロハンなんです。この指先からテープが出るんですけど、地味で、ヒーロー向きじゃないから、あんまり……。
だけど、瀬呂さんのこと見てたら、元気づけられました。セロハンも捨てたもんじゃないなって!」


初対面に向かって眩しい笑顔を見せてくれる彼女。思わずドキッとした。なんか、かわいい。


「ぶっちゃけセロハンって、テープ出るだけだし、ヒーローは派手な方がいいだろうし……だから、そう言って貰えると、こっちもありがたいっす、ほんと」


なんだか本当のヒーローになれたような気分だ。誰かを笑顔にさせてあげられている。これって本質的な理想じゃないだろうか。がぜんヒーロー志望が強くなる。


「これからも応援してます。ほんとにすみませんでした、急に」


ぺこりと頭をさげ、すぐそこの角を曲がる女の子。俺は思わず「ちょっと待って!」と声をかけた。彼女は驚いたように目をぱちぱちさせる。


「えーっと……なんていうか……セロハンテープ同士、友達に、なりませんかね……?」


スマホを見せながらしどろもどろに言うと、彼女は少しだけ顔を赤くさせて何度も頷いた。一緒に帰るはずの上鳴は、いつの間にやら居なくなっていた。




──ありがとう、俺の個性!

(きっとテープに糸が絡みついたんだ。感謝しなければならない。……あと、上鳴ごめんな!)







リクエスト、ありがとうございました!瀬呂くんは初めてだったので上手くできたか不安ですが精一杯書きました、また瀬呂くん書きたいです!

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ