幸運は勇敢な者を好む。
□感情読めないあの人と。
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「どうだった」
「どうもこうもないですよ、ご飯食べて帰ってきました」
家に着くと、リーダーがテレビを見ていた。何ということはない、ただのバラエティ番組だ。彼はこの番組が好きで毎週欠かさずに見ている。再放送だって見逃さない。
「次会う約束は」
「まだしてません、私の電話番号とか教えただけです」
何か情報が掴めたら言いますから!と言って部屋に駆け込んだ。自分のペースでやらせてくれたっていいのに。
轟くん相手にこんなスパイじみたことをするなんて、なんだか気後れしてしまう。飲食店で働いているというのは嘘じゃないが、敵として活動しているのも事実。
ヒーローになるくらいだ、轟くんは当然悪い人じゃない。だからこそ純粋な彼を騙すような真似するのが申し訳なくて。少なくとも彼は私のことを嫌っていないようだけど、敵だとバレたらそれはもう想像するのも恐ろしい。
そもそも会わないほうが良かったんだ。情報の集め方なんていくらでもある。プロヒーローに近づくような危険をおかしてどうするんだ。
スマホから、通知音が鳴った。手に取って見ればそれは轟くんからのメッセージ。
『今日は楽しかった。またどこか行けたらいいな』
スタンプも何もないそれだけのメッセージ。楽しかったって、それほんと?私なんて気も利かないし話題だって続かないし。轟くん、楽しそうな顔してなかったような気がする。
『私も楽しかった!今度は、私がどこか連れてくよ』と返し、可愛げのあるスタンプを送る。私が行くお店なんてよくあるチェーン店ばかりだ。轟くんはそういう所も行くのかな、大丈夫かな。オシャレなお店とか探しておこう。あと服。
『水無月が働いてる店に行きたい』
私は、個人営業の居酒屋で働いていた。料理はとても美味しく、お酒の種類だって多いけど、轟くんが来るような所じゃないと思う。ほら、彼は高級そうなバーとか行きそうでしょ。
来てよ、サービスするから、と言ったのは私なのだが、本当に来ると言うとは。
いや、でも来てくれるならぜひ来て頂こう。店長も喜ぶはずだ。サインなんかも貰えたらいいかも。それをお店に飾ればいい宣伝になる。……図々しいかな。
今後はいつ都合が合うか分からないので、私が働いているときに行く、と彼は送ってきた。休みは基本的に木曜と土曜。それ以外なら大抵お店に居ることを伝え、ひとまず会話を終えた。お店の場所などは食事中に流れで話してしまったから、たぶん分かると思うんだけど。
「轟くんとお話しちゃったな……」
LINEの友達欄にショートがある。仲間や公式アカウントばかりのそこに、1人だけヒーローがいて、何よりも輝いて見えた。
轟くんのアイコンは、かなりブレた写真。色合い的にたぶん本人だけど、撮り直して変えたらいいのに。今度撮ってあげようかな。とびきりカッコイイのを。
ふと、たった1度会って食事をしただけなのに、馴染みすぎている自分に気がついた。昔から仲が良かったみたいに、違和感なく轟くんと話せているな、と。
意外と相性がいいのかもしれない。これなら中学生のときもっと話していれば良かったなぁ。後悔先に立たずってやつだ。
「水無月」
「はーい」
リビングから呼ばれた。リーダーだろう。大好きなバラエティ番組は終わったのかな。
「何ですか?」
「来週は雄英体育祭がある。見てこい」
「え!?リーダーが行けばいいじゃないですか!」
「馬鹿か、俺はヒーローにも顔知られてんだよ。お前は表に出たことねぇんだから行けるだろ」
見に行ってどうしたらいいのだ。敵に引き入れることが出来そうな生徒でも探すわけ?いつぞやの敵連合みたいに?ヒーロー志望が集まる雄英で?絶対に無理でしょ。
「将来有望なヒーローの卵は早めに潰しておきたいだろ、敵としては」
「そんな怖いこと、言わないでください」
だけど、確かに未来ある人のマークくらいはしておいた方がいいだろう、敵としては。わざわざこちらから消しに行くことはないにしろ、相対したときに備えるべきだ。
私は個性柄、正面衝突することはないだろうけど、リーダーは発動型だから個性の調査は必須と言える。せっかくメンバーで調べてファイリングまでしてもリーダーは読んでいないようだが。
「仕方ないですね、私も敵ですから行きますよ」
「敵はいちいち敵だって言わねぇよ」