幸運は勇敢な者を好む。

□心臓がもたないですから!
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「すごい人だね」
「そうだね〜さすが雄英だわ」



1人で来るのは気が引けて、高校から付き合いのある友人と共にやってきた。この体育祭は、高校の行事にすぎないけれど、かつてのオリンピックに変わる大祭典ということもあって、一般市民にも公開されていた。当然テレビ中継もある。

こうして会場におもむいたのは初めてだ。今まではテレビで見るばかりだったから。



「プロヒーローも来るんだもんね、ショート居る?」
「もしかしてユキちゃん、それ目的?」
「そりゃあねぇ」



やだなぁ、もう。久しぶりに連絡したけど、ふたつ返事でオッケーしてくれて嬉しかったのに。まぁ確かにこの人はカッコイイ俳優とか何だとかが好きで、スポーツとか興味なさそうだったもんなぁ。


だけどショートはカッコイイんだ、ほんと。ずるいくらい。雑誌にピンナップがつけば皆買うし、写真集なんか発売すれば入荷待ち。少し前は肉体美を披露していたような。すごい筋肉だった。

もちろん他にも人気のヒーローはたくさんいる。例えばデク。平和の象徴として君臨していたオールマイトを思い出させる勇敢な姿勢と、メディアに出る時のオドオドさ、時に見せるオタクのような独り言。そのギャップがたまらない!という人は多い。


女性で言えばMt.レディはコアなファンが多く、目立ち具合からも人気は高い。ウラビティは言動も見た目も可愛いし、とても活躍している。デクとの熱愛報道もあったが、実際のところは分からない。だけど事実だとすれば応援したいよね、恋愛っていつの時代も素敵なものでしょ。



エンデヴァーも、ここ数年で女性ファンが増えてきた。以前は「なんか怖い」とか「雰囲気が嫌」とか散々な言われようだったのに……。

親子だから当たり前なんだけど、ショートとエンデヴァーってそっくりだよね、性格面というか、内に秘めたものというか、そんな感じが。



「咲涼、始まるっぽいよ。……ねぇ、ショート来てないのかな?」
「知らないよ……」


選手宣誓の後、第1種目が始まった。私たちが見に来ているのは1年生。本当にまだまだ卵の子どもたちだが、だからこそ注目が集まる。

……あ、カッコイイ子が居る。


「ほんとに1年生?めっちゃすごい子居るけど」


学年に1人や2人は、必ず天才的な逸材がいるものだ。というか、雄英のヒーロー科はみんなそういう凄い子供ばかりなんだろうけど……。

人によっては、10数年の間にかなり個性を磨いている場合がある。そういう子は1年生でも次元が違う戦いをするんだろうなぁ。派手な個性って羨ましい。


「鳥の個性だ、かっこいい!」



鳥系の個性は、子供の頃は誰もが憧れるんじゃないだろうか。空を飛ぶのってロマンが溢れる。来世の個性は鳥でお願いします、神様!





やがて全ての競技が終わり、優勝は左腕が蛇という個性の男の子だった。生活しづらそうな個性だね。生徒の退場と共にちらほらと観客が立ちあがり、帰っていく。


「私たちも帰ろうか」
「そうだね。結構楽しかったなぁ、スポーツとかぜんっぜん興味なかったんだけどさ」



最初のうちはショートが見当たらない!と嘆いていた彼女も、気付けば体育祭に夢中になっていた。興味のない人まで虜にする雄英体育祭って、相当すごいよね。

また来年も、再来年も来ようと話し合った。1年生の成長を見守りたい、と。まだ23歳なのに母性本能的な何かがくすぐられてしまうとは。



「……あ。わ、私、用事思い出した!先に帰ってていいよ」
「えー、咲涼とご飯行けると思ったのに」
「ごめん!また今度行こ!」


じゃあね、と手を振って、彼女は去っていった。本当は用事なんてないし、私も食事に行けたら、と思ってたんだけど。


「水無月、来てたんだな」


カバンを持った轟くんが、軽く手をあげてやってきた。どこに居たんだろう?ユキちゃんがあんなに頑張って探しても見つからなかったのに。……あんなに人が居れば見つかるわけないか。



「来てみたいなぁって思ってたんだ。轟くんも来てたんだね」
「仮にもヒーローだからな。ましてや母校のイベントだ。来ねぇわけにも行かねぇ」



雄英のメンツが揃ってんだ、と後ろを指さした轟くん。そこにはデクやウラビティ、インゲニウム、チャージズマ、それからイヤホン=ジャックなどなど……ここまで集まるものか!と圧巻のヒーローたちが揃っていた。



「これから飯に行くんだ。年に1回の恒例行事ってやつだな」
「す、すごいね、生で見れるなんて感激……!」



写真を撮りたいくらいだ。でもマナー違反にもほどがある。目に焼き付けておこう。


「水無月もどうだ、一緒に」
「無理!無理だよ、私、場違いだし!凄いヒーローばっかりじゃん!」
「そうか」


遠慮なしに腕を掴んで歩く轟くん。抗うことも叶わない。待ってくれ、ほんとに死んでしまう。冗談抜きで。



「轟くん?その人は……」
「……いいか?居ても」


不思議そうな顔をしたヒーローの面々。轟くんの言葉に快く頷いてくれたが、そこは断ってもいいと思う。ただの一般人がヒーローと食事なんて有り得ない、普通に考えて。

いや、私はただの一般人ではない、むしろ敵なんだ、余計ダメだ。彼らはそんなこと知る由もないんだろうけど……。あぁどうしよう!感動どころか泣きそうだ。



「す、すみません……よろしく、お願いします……!」












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