幸運は勇敢な者を好む。

□夜ご飯はどうしようか。
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人様の家で過ごすなんて落ち着かない。轟くんは好きにしていいと言ってくれたが、初めて来たのに泊まってしまった異性の家でリラックスできたならかなりの図々しさだ。ちなみに私はそんな性格ではないと思っている。


1人になると、約束を思い出せない恐ろしさがじわじわと私を蝕んでいく。轟くん本人が居ればむしろ落ち着いてしまって何と言うことはないのに。次に会う時、次に連絡をする時、轟くんが約束のことを口に出したらどうしよう?覚えていないとバレてしまったら?

そう思うととても正気ではいられない。この部屋にあるものを全て壊してしまいそうだ。この葛藤を、どう解消したらいいだろう。轟くん、早く、帰ってきて。


「……お肉……」


夜はお肉が食べたいって言ってたなぁ。でも冷蔵庫にはお肉がない。使ってしまった。買い物に行かなければ。だけど鍵とかはどうしよう。鍵がかかったボードがあるけどどれが家の鍵か分からない。そもそも勝手にいじるのはちょっと……。

悩んだ結果、私はソファーで眠ることを選択した__。






「……水無月、風邪ひくぞ」
「ん……」


私を呼ぶ声が聞こえ、うっすら目が覚めた。いくらふかふかとは言えこんな所で寝たせいで体が痛む。赤と白の鮮やかな頭が目に入った。


「轟くん!」
「お」


思わずぎゅう、と抱き寄せると、彼は小さく声を出したものの、引きはがすことはなかった。彼の右側は氷が出されるが、とても温かく、気持ちがいい。何度も目が覚めて、その度に轟くんが居ないことを恨めしく思って。彼が今ここにいることが嬉しくて仕方ない。


「どうした」


そっと背中に回された手に気付いた途端、ものすごく恥ずかしくなった。私はなんてことをしているんだ、離れないと、だってこんな……!


「……ごめん、あの、離れる、ね」


離れようとしたら、今度は轟くんが力を入れてしまい離れさせてくれなくなった。この状態にしたのは自分だ。だけど耐えられない。轟くんの息が通り抜けていくのを感じてびくりと体が震えた。


「と、轟くん、あの、買い物、行かないと……夜ご飯の材料が、なくてっ……」
「……一緒に行くか」


思いのほかパッと体が離れた。轟くんが持っていた荷物を部屋に置いて来る間、私は着替えることにした。髪もボサボサだし。……こんなだらしのない格好だったなんて。鏡のまえで深くため息をついた。





「肉って具体的に何がいいの?」
「何でもいい」
「……じゃあ唐揚げね」


となると鶏肉が必要だ。野菜も要るよね、バランスって大事でしょ。


「ここ、色んなもの置いてるんだね」


轟くんの家から歩いて10分ほどのスーパー。私がよく行っていた所とは違い、変わったものも置いてある。ただ歩くだけで楽しい。


「初めて来た」
「どうやって生きてたのほんとに」


轟くんがこのスーパーがいいって言ったんじゃん、だからよく来るのかなって思うじゃん。あの大量のそばはどこで買ったの。


必要なものをカゴに入れて、あれやこれやと食べたいものも入れて、轟くんが欲しいというお酒とそば(これ以上買ってどうする)も手に取った。轟くん、結構お酒飲むんだなぁ。


すんなり会計を終え家路につく。重いものはさりげなく持ってくれる辺りがカッコイイ。


「すっかり暗くなっちまったな」
「轟くんお腹すいてるよね、私寝ちゃってて何もしてないから……」


買い物に行くだけなら轟くんに連絡なりしてどうにかできたはずなんだ。それに日中あんなに睡眠をとってしまったら、夜眠れなくなる。


「大丈夫だ。俺も手伝う。それに水無月だって腹は減ってるだろ」



確かに今日は朝から何も食べてない。起きてすぐは気にならなかったけど、買い物の間にお腹がすいてきた。ぼんやり考えていると、ぐぅと小さくお腹が鳴って恥ずかしかった。轟くんには聞こえてなさそう。


「ハンバーグでも良かったかも。正直あんまり作ったことないけど」


チーズ、トマトソース、デミグラスソース、和風おろし、目玉焼き……轟くんは何が好きだろうか。いっそ全部作ってみてもいいかもしれない。1度に全部作ると食べきれないかもしれないから、最初は王道のチーズ、次に作る時はデミグラス、その次には和風おろしにいってみる。あとは、チーズはチーズでも、某ハンバーグ店のようにチーズフォンデュ風にしてみたり……できるかな?


「楽しみにしてる」
「プレッシャーがすごい」
「失敗しても食うぞ、俺は」


真っ黒焦げでも食べてくれるのかな、と思うと、実践したくてたまらなくなったけれど、轟くんにそんなもの食べさせるわけにはいかない!と頭を振った。やっぱりプレッシャーだ。練習、しようかな……。









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