地獄への道は善意で舗装されている。
□入学早々の大ピンチ。
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担任に初対面したほんの数分後。私はやはり、別の高校を選ぶべきだったのだと後悔した。入学祝いの御挨拶というにはあまりにも重すぎる。そんな壁にぶち当たったからだ。
「個性把握、テスト……」
ソフトボール投げ、上体起こし、握力などその他もろもろの体力測定。それを今からするという。
__いや、ただするだけなら何ら問題はない。中学までの個性禁止だったら。条件は全員が同じだもの。
今回の個性把握テストは違う。それぞれの個性を最大限活かせる。しかしそれは私にとって不利以外の何物でもなく、例えばさっきなんて先生に指名された爆豪くんなんか「死ねェッ!!!」とか言いながら700メートルとかいうソフトボール投げの記録を叩き出した。
もちろん、みんなが皆そんな記録を出せるとは限らない。むしろ、計8種目もあるテストで、全て桁外れであるわけないだろう。
別に記録がしょぼくたって私はいいのだ。いいんだけど、誰かさんが「楽しそう」だなんて言ったおかげで、最下位は除籍処分となってしまうことになった。
ひたすらに迷惑だ。
確実に私が最下位となる。絶対そうだ。さよなら雄英。
「飯田くん……私きっと最下位だから……飯田くんは雄英で頑張ってね……」
「何故最下位だと分かるんだ?個性を使えば1つくらいはいい記録を出せるのではないか?」
「使えるような個性じゃないんだよー!」
私の個性は"再生"。
壊れたものをそっくりそのまま元通りに直すことが出来る。粉々に砕けていたとしても。ただし生き物には効かない。
日常生活を送る上では最高に役に立つ。だけどヒーロー活動をするとなったら……ヴィランに壊された街を修復するくらいだろう。
とはいえ、この個性、応用さえすればもっと使い道はある。あるのだが……約15年の人生で、いまだに成功していない。
恥ずかしいことに。
「素晴らしい個性じゃないか!しかし……確かに今回は使えなさそうだな」
「そうでしょ……」
悲しい現実。だけど弱肉強食なんだから仕方ない。ただいい成績を残せば、何かはある。きっと。
「……ん?待てよ、1つだけ思いついたんだが……その前に聞きたい」
「なぁに?」
「地面だとかも直せるのか?」
「もちろん!コンクリートのひび割れだとか、そういうのも直せるし」
「なるほどな。上手くいくか分からないが……」
そう言って、飯田くんから伝えられた"作戦"。簡易的なもので、本当に成功するかは怪しいけど、やらなければならない。
私には選べるほど道がないもの。
まずは50メートル走。さっそく個性を使える。
「せ、先生、ちゃんと直すので、ゴールのとこの地面割ってもいいですか」
「…………まぁいい」
ありがとうございます!と返事をして、飯田くんにゴール付近の地面を割ってもらった。一部から「飯田にやらせんのかよ!」と声が聞こえたが、私に出来るはずないんだからいいじゃない。
「ありがとう、飯田くん」
「構わないさ。やれることはやる」
少し微笑んだ飯田くん。本当に、優しい。
割れた地面の欠片を手に、スタート位置につく。初めての挑戦。まさにPlus ultraって感じだ。
「よーい……スタート!」
掛け声と共に走り出す。そしてジャンプをして、それとほぼ同時に、手に持った地面の欠片を"再生"した。地球の重力に負けない、とんでもない速さで私の体は前に引っ張られる。
「……っ……!」
ゴールしたところで欠片を離した。4秒51。微妙と言えば微妙だが、自分で走るよりものすごく早い。
「水無月さん!さっきの、どうやったの?」
緑谷くんがすごい速さでやってきた。なんだか興奮している、気がする……。
「飯田くんに考えてもらったんだけど……」
端的に言うと、地面を直す力で私の体を持っていっただけだ。
地面を割り、宙に浮いた状態で欠片を直す。欠片は個性によって元あった地面に戻ろうとするから、欠片を持つ私も同時に移動できる。ただそれだけ。
空気抵抗はあるものの、宙に浮けば摩擦はないし、何かと使えそう。
「なるほど……"再生"か……壊れていないといけないのが難点……対ヴィランなら壊れているものはいくらでもありそうだけど……」
ブツブツと自分の世界に入り込む緑谷くん。
話しかけても反応はない。変わった人だ。
「水無月君、やったな!」
「うん!飯田くんのおかげだよ!」
役に立てて良かった。
そう言った飯田くんの笑顔は眩しくて。やっぱり、雄英に残りたいと思った。
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