地獄への道は善意で舗装されている。

□後悔か、それとも。
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やがて全ての種目が終わった。あれやこれやと頑張ってはみたが、どうにも手応えはない。もしも最下位だったら……。


「トータルは単純に評価を合計した数だ。時間の無駄なので一括開示する」



ドキドキする、心臓が飛び出そうだ、どうしよう、どうしよう、どうしよう……。


「ちなみに除籍は嘘な」
「へぁ!?」


映し出された結果を見て、私は本当に、朝ごはんを吐き出しそうになった。足に力が入らなくてグラウンドの上に座り込む。


「さ、最下位……」


21位。相澤先生のあれが嘘じゃなかったなら、と考えるのは、やめられなかった。


「水無月君……?」
「い、飯田くん……」
「大丈夫か?具合が悪そうだが……」


皆はぞろぞろと帰っていく中、飯田くんは心配そうな顔で私に手を貸してくれる。


「ごめんね、大丈夫、だよ」


全然大丈夫じゃない。だけどあまり迷惑もかけられないから、私は他の皆についていった。

全員が全員というわけじゃないだろうけど、雄英がこんなに恐ろしいところだったなんて知らなかった。これからやっていけるだろうか。









「はぁ……」


何度目の溜め息だろう。溜め息は幸せが逃げていく、というが、その反面、簡単なリラックス効果もある。しかし私の心は曇る一方。実際幸せは逃げていってるかもしれない。


やや前方を、飯田くんと緑谷くんが歩いてるのが見えた。いつもの調子なら話しかけにいったけど、今はそんな気分じゃなくて。


早く帰って眠りたかった。明日もあるんだから。


「水無月君!」
「……飯田くん」


前を歩いていた2人が近付いてきた。何か用だろうか。


「やはり元気がないぞ」
「何かあったの?……い、いじめられた、とか」
「ぶっ!!」


緑谷くんがあまりにも申し訳なさそうに言うものだから、思わず吹き出してしまった。だって初日でいじめなんて!たぶん、よっぽどのことがなければない。


「違うよ!ただちょっと疲れたなぁって」
「確かに、初日にしては色々やったよね」
「雄英という最高峰ならばこれぐらいは当然なのだろうか。明日からつらいものとなりそうだな」


久々に動いたから筋肉痛になりそう、と言えば飯田くんからは「普段から運動して鍛えないとヒーローにはなれないぞ!」と戒めの言葉を頂いた。

そりゃあそうだけど、やっぱり自分に甘くなってしまう。それがこれからの高校生活に響いてくる、ということか。生徒なのに過労死とかしないよね……。


「3人共ー!駅までかな?一緒にいい?」
「あ!えーと、麗日さん、だよね!」
「そうだよ!貴女は水無月咲涼さん!それから飯田天哉くんに、緑谷……デクくん!」


デク、なんて名前だっただろうか。私が彼と会ったときは違った気がする。だけどテストのとき、暴言と爆発がすごいあの人はデク、と呼んでいた。


「えっと、本名は出久、なんだ!!」
「蔑称か」
「でも、頑張れって感じで、なんか好きだ、私!」
「デクです!!!」
「うわ緑谷くん単純だぁ!」


麗日さんみたいな可愛い人が言ったからって!そうやって!男ってほんと馬鹿ですよね!!


「やっ、あの、コペルニクス的転回……」
「ちょっとよく分かんない」
「つらい!!」


また駅へと歩き出した私達は、ほとんどがあまり話したことのないメンツなのに、なんだか仲のいいグループのようで。


「コペルニクス的転回って何?」
「物の見方が180度変わる、という意味の例えだ」
「へぇー」


隣に居た飯田くんに聞いたら即座に返ってきたので、恐らく彼に聞けば何でも教えてくれるだろう。

歩く辞書かな。真面目すぎる飯田くんの性格はなんだか辞書っぽい。カクカクしてそうだ。


「飯田くんは物知りだね」
「雄英に入るうえで知識を叩き込んだんだ。どんなことも無駄にはならないだろう?」
「そうだよねぇ」


私もそういう理論的なことを調べてみようか。それをペラペラと話すことができたら、とても頭がいい人みたいでカッコイイ。

知識を自分からひけらかすのはかっこ悪いけど。


「水無月さんって、飯田くんと仲良しなんだね!」
「えっ?」
「だってほら、朝も話してたでしょ?」


麗日さんの率直すぎる意見に、なんだか恥ずかしくなってしまった。仲良しというほどではなくて、それに、何というか……形容しがたい、のだけれど。


「入学前から知り合いなだけさ。お互いのことはよく分からないからな、君たちとなんら変わりない」
「そ、そうそう!」
「なんだぁ」


苦笑いをこぼして、ふと心の雲が晴れていることに気付いた。みんなのおかげ、かな。

やっぱり雄英に来て良かった!









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