地獄への道は善意で舗装されている。

□ドキドキの戦闘訓練。
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「始めようか!有精卵共!!」




ヒーロー基礎学。皆が楽しみにしていた科目だ。基礎学というぐらいだから少なくとも最初は座学かな、と誰しもが考えていたのだけれど、早速実技ということで一気に浮き足立つ。

ヒーロースーツを着れるのはいい。だけど……。


「ちょっと可愛すぎる、気が」
「そうかなぁ?水無月さん、似合ってるよ!」
「う、麗日さんもすっごく可愛い、よ!」


初めて着たスーツ。適当に要望を出したから、かなり奇抜……というか、なんというか……。

膝丈のスパッツはついていたものの、膝上10センチほどのスカートで、こう、太さが目立つといいますか。つらい。

八百万さんはあんな綺麗な体をしていらっしゃるのに、私はなんてだらしのない体なんだ!少しは見習わないと!

でも多分ダイエットとかしない。


ちなみに上は七分袖Tシャツにノースリーブのパーカーを羽織り、ハイカットのスニーカーをはいている。色などの詳細については想像にお任せしよう。無責任?何とでも。


っていうか私服かよ。



腰にベルトを巻いているんだけど、そこには鉄パイプだとかあれやこれやを取り付けていて、数少ない攻撃手段として活用する……つもり。

だけど私は力も全然ないし、鉄パイプなんか超近距離なわけで、攻撃できるのかと言われると出来やしないだろう。


「パツパツで恥ずかしいけどねぇ」
「そんな!もう、すごいよ、その、すごい」




変態みたいなことを言ってしまった。



「あれ?飯田くんは?」
「飯田くん?ここには……居なさそうやけど……」
「水無月君!」


白いフルフェイスヘルメットをした誰か。声からして……。


「飯田くん?うわぁ、カッコイイね!」
「そうか?ありがとう!君もとても可憐で素敵だと思うぞ!」
「え、っと……あ、あり、がとう……!」


感想をあまりにも率直に述べられ、とても恥ずかしくなってしまう。飯田くんはそんなつもりないんだろう。


「可憐、じゃないと思う、けど」
「いいや、もっと自信を持つべきだ!」
「……飯田くん、ほんとすごいよ」


その素直さが。




そう言いかけたが、オールマイトの声により遮られた。


「ほらほら!始めちゃうよ!今回は屋内での対人戦闘訓練さ!統計で言えば屋外よりも屋内の方が敵出現率が高い。というわけで、君たちには"敵"と"ヒーロー"に分かれ2対2の模擬戦を行ってもらう!」



説明によれば、敵は制限時間のあいだ核を守ること、ヒーローは時間内で核を回収することが目的。

どちらかが目的を達成するか、捕まえられるかで勝敗が決まる。


チーム分けはくじ。


ちなみに私はB。轟焦凍くん、障子目蔵くんと同じチーム。どっちも怖そう。


「よ、よろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそ」


轟くんはなにも返してはくれなかったけど、障子くんは大量の腕の1つから返事をしてくれた。


「すごい……!どういう、個性なの?」
「複製腕。ご覧の通り、腕を増やせる。その先にはこうして目、耳、口の複製も可能だ」


あまり喋らない人だと思っていた。けれど、案外おしゃべりみたいで、とても安心した。まぁ喋ってるのは複製した方なんだけど、でも話してくれてるのに代わりはないからいいのだ。


「あっ、障子くんって握力がゴリラの……ヒーロー向きって感じだね!人気出そう!」
「お前もすごいと思うが。物を直せるなんて優しい個性だ」
「……障子くん、意外と優しいね」


想像と違う。轟くんは……うん、まぁ予想通り、って感じ……。私と同い年の子がこんなにキツイなんて世の中どうなっているんだろう。

不思議なものだ。





第1戦。敵の飯田くん・爆豪勝己くん対、ヒーローの緑谷くん・麗日さん戦。


「何話してるんだろう……」
「音声ねぇもんなぁ、気になるよなぁ」
「上鳴くん電気でビビッとできないの?」
「水無月、俺そんなハイスペックじゃないぞ!」



モニターを眺めるだけの私達は、そんな呑気なことを言い合えた。映像しか流れないそれは、決して爆風や衝撃を運ぶわけじゃなかったから。


だけどあれは、高校1年生にしては激しすぎる戦いだった気がする。

爆豪くんの派手な爆破が建物を壊していって、緑谷くんとの攻防がエスカレートして。とても危なそうだった。最終的に勝ったのはヒーロー役の緑谷くん達だったけど、怪我もしているし……。


高校1年生だからこそ、あんなに激しかったのかな。あまりにも知性に欠けた、あまりにもスマートじゃない戦い。


ヒーローとして成長するだけでなく、敵の様々な思考も学ぶべき、なのだろうか。


「難しい……」







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