地獄への道は善意で舗装されている。

□変わるのは自分。
1ページ/1ページ





「……飯田くんは大切な友達だから、元通り、話したりしたい」
「仲悪いより仲良い方がいいもんね」


このまま何も出来ないで、ずるずると引っ張り続けるのも嫌だ。私のせいでこんなことになって。飯田くんにだって、愛想を尽かされてるかもしれない。


「だけど、どうしたらいいか、分かんなくて……!」


嫌われたくなかった。そのくせ嫌われるようなことをしているのは自分に違いなくて、笑いも出ない。今となっては、そもそも仲が良かったのだろうか、という疑問さえ生まれていた。飯田くんには緑谷くん達が居たわけだし、異性の私よりも彼の方が良かったのではないか。



「もう私なんか、とっくに、嫌だって思ってるかも。自分から突き放すような、酷い真似することにならなくて良かったって、思ってる。きっと。せいせいして、」
「アンタねぇ、いい加減にしなよ!」


耳郎ちゃんの怒鳴り声が響いた。見たことの無い表情で、痛いほど私の肩を掴んで。


「ウチはアンタらのことはよく分かんないよ。でも仲がいいんだなって思ってた。飯田も水無月も嘘には見えなかった。別にウチだって仲いいわけじゃないし、実際のところは知らない。だからこそ、勝手な想像で話すのは失礼なんじゃないの?」


何が言いたいか、分かる?と、耳郎ちゃんは深呼吸のあとに聞いてきた。何を答えよう、正解は、何なのだろう。頭の中をぐるぐる回って、結局口から出てきたのは酷い八つ当たり。


「私の気持ちなんて分かんないでしょ!他人の心は覗けないんだから!もう離してよ!」
「このっ……!」
「2人とも落ち着いて!貴女達が喧嘩をしてどうするんですの!」


掴み合いにまで発展しそうになったのを、八百万さんが割って入った。私達にはなんの因縁もないはずなのに喧嘩なんて、聞いて呆れる。


「耳郎さん、いきなり怒鳴るのは良くないですわ。水無月さんは精神的に不安定なんですから、そこは考慮しないと。それに、お忘れですか?今は登校中ですわよ」


少なくなってきたとはいえ、確かに人は居た。雄英の生徒以外にも通勤途中であろう男性などが、ここで一悶着している女子高生を奇異の目で見ている。


「ご、ごめん、耳郎ちゃん……」
「いや……ウチもごめん」


少しというかかなり恥ずかしい。朝から泣いたり怒鳴ったり、そんなのをわずかでも他人様に見られたことが、とにかく羞恥だった。


不意にお茶子ちゃんの声が聞こえた。お茶子ちゃんは遠く、近くに上鳴くんと飯田くんの姿もある。どうやら走っているみたいだ。



「飯田さんにも、そうやって素直になればいいんですのよ。彼は驚くほど真面目ですから、二度と貴女に話しかけないかもしれません。水無月さんから歩み寄らなければ元には戻れませんわ」


ふわりとした上品な八百万さんの笑み。彼女は視線を移して「タオル、お作りしますわよ」と言った。

視線の先には息を切らしたお茶子ちゃん。持っている鞄は2つ。私の分まで持って、わざわざ走ってきてくれた、ということか。


「咲涼ちゃん、大丈夫!?」
「急に走り出すからビックリしたぜ」
「……うん、ごめんね。もう大丈夫だよ!お茶子ちゃんこそ大丈夫?」
「私も全っ然、だいじょーぶ!ちょっと、疲れたけど……!」


お茶子ちゃんの息が整うのを、ゆっくり歩きながら待った。飯田くんはともかく、耳郎ちゃんと話している上鳴くんもあまり息がきれていなくて、男の子はやっぱり体力があるのかな、と思った。


「水無月さん。麗日さんとは私がお話しますから、飯田さんと」
「うん……」


頷いたものの、どうにも踏み出しにくくて、なんて切り出そうか悩んでいるうちに上鳴くんが「時間やばそうだぞ!」と言い出し、みんなで走った。やばそうだと言った割には余裕をもって到着した。

飯田くんは1度も口を開かず、学校に着いて、お茶子ちゃんに「飯田くんは体力あるよね」と言われた際に「個性柄、走ることはよくあるからな」と返しただけだった。


「アホ上鳴が。空気読めないなアイツは」
「水無月さんも、そんな様子では進みませんよ」
「はい……すみません……」








次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ