地獄への道は善意で舗装されている。

□ヒーローには誰しもが憧れるもの。
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「皆!朝のホームルームが始まる!席につけ!」
「ついてねーのはおめーだけだ」


臨時休校明けの朝。相澤先生は大丈夫かな、とみんな心配していた。盛大なボケをかました飯田くんが「そうか」と席に着くと同時に扉が開いた。


「おはよう」
「相澤先生復帰早っ!?」
「俺のことはどうでもいい。お前らの戦いはまだ終わってねぇ」


クラスがざわざわし始めた。戦いってなんだ?まさかまた敵が?そんなうるさい生徒に、珍しく怒る様子もなく相澤先生は続けた。


「雄英体育祭が迫ってる!」
「クソ学校っぽいのキタァアっ!」


体育祭。ヒーローを目指すくせに運動がそこまで得意ではない私には、正直憂鬱。だけどヒーロー科である以上これは外せない行事である!プロヒーロー達が、全国からスカウト目的で体育祭を見に来るのだ。

日本においてオリンピックに代わるのが雄英体育祭だというのだから、敵襲来にあったからとやめることはできない。

何よりヒーローなのだ。ヒーローが敵に屈するわけにはいくまい。






「咲涼ちゃん……デクくん……飯田くん……体育祭、頑張ろうね……!」
「お茶子ちゃん!顔がうららかじゃないよ!!」


妙なテンションのお茶子ちゃんを連れ、私達は食堂に向かった。どうしてヒーローを目指してるの?と聞いたら……。


「究極的に言えば、お金のため……かな……飯田くんは立派な理由なのに私恥ずかしい……!」
「何故だ?生活のために目標を掲げる事の何が立派じゃないんだ!?」


お茶子ちゃんのご実家は、建設会社をやっているそうで。お茶子ちゃんの個性ならとても役に立つけれど、お父さんからは「好きなことして頑張ってほしい」と返ってきた。だからヒーローになって両親に楽させてあげるんだ、と。

「お茶子ちゃん……立派だよ……!」
「ブラボー!麗日君……ブラーボー!」
「飯田くん、声響いてるよ、抑えて」

「あっ、オールマイト!」
「緑谷少年……ご飯一緒に食べよ?」

「可愛い」


緑谷くんがオールマイトに呼ばれ言ってしまった。オールマイトは可愛い布に包まれたお弁当を持っていたけど、緑谷くんは多分お弁当ないし、食堂に行かずに食事ってどうするんだろう、と思った。


「デクくん、何だろうね」
「個性も似ているし、オールマイトに気に入られてるのかもしれないな」


ご飯を誘ってもらうくらいだから、確かにそうだろう。私もオールマイトと気軽に話せたらいいのになぁ、ナンバーワンヒーローは緊張してしまう。


「ねぇ、咲涼ちゃんは何でヒーローになろうと思ったの?」
「えっ?私?」
「俺も聞いたことはないな。気になる」


私こそ大したことじゃないんだけど、キラキラした目で見られては断れない。


「ギャングオルカって知ってる?」
「『敵っぽいヒーローランキング』3位だよね!でも根は優しいって聞いたことある」
「そうそう、その人に、私、昔助けてもらったことがあって」


小学生くらいのとき、家族で海に行った。とても天気が良かったし、連休だったから混んでいたのを覚えている。

当然悪い性格をした人も多くて、少しだけ1人で遊んでいたとき、悪戯で足を引っ張られた。浮き輪は外れたし足をつったし溺れかけて、そこにやってきたのがギャングオルカ。

ギャングオルカが居るからって両親が言うから、そのビーチに行ったんだけど、初めて彼を見た時は怖いと泣いたし、海に入っていた私には、助けにきてくれたのに、サメに思ってしまって。食べられると思った。


「海で溺れるよりサメに食べられる方が怖いって考えてたんだよね」
「食べられるのは怖い……」
「怖いよね!?絶対痛いし!」


だから逃げようとしたんだけど、ギャングオルカはビックリするぐらい優しい声で「大丈夫だ」って言ってくれた。


「ほら、ギャングオルカって体大きいでしょ、それで包容力があるから、すごく安心して、ヒーローに、ギャングオルカに憧れて……」


個性も全然違うから、同じ舞台に、って言ったら変だけど、ヒーローになったらもっと近付けるはず。


「インゲニウム……飯田くんのお兄さんにも助けてもらったことがあるの。余計ヒーローに憧れちゃうよね。すごく、かっこいいから。……ご、ごめんね!これだけ、なんだけど」


長々と語った割に、内容は助けられたから憧れただけ。熱弁して恥ずかしい。


「ううん、やっぱりヒーローを目指すのは、憧れから入るよねぇ。でも他の理由って正直要らないんじゃないかなぁ」
「確かに。"憧れ"は砕けやすい目標ではあるが、その反面何よりも強い意志になるだろう」


俺も兄さんに憧れている。誇りだ。

飯田くんは本当に嬉しそうだった。私がインゲニウムを話題に出したから、かな。本当に好きなんだね、お兄さんのことが。素敵なヒーローだもん、当たり前だ。








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