地獄への道は善意で舗装されている。

□旅は道連れ世は情け。
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体育祭まで2週間ほどあった。その間、特別体育を多くやることもなく、いつも通りのカリキュラムだった。しかし放課後はみんな努力していたはず。それぞれがそれぞれの個性を活かす特訓をしていたようだ。

私はもちろん、変形の練習を。でも、練習っていったって、どうしたらいいか分からない。イメージして挑戦しても上手くいかないし、誰かに聞いてみたらいいのか。体育祭はほぼ個人競技みたいなものだ。敵に塩を送るような真似、してくれるか分からないけど……。


ある日の放課後、早速話しかけに行ったことがあった。


「や、八百万さん!ご相談が!あります!」
「私で良ければ何でも!どうしたんですの?」
「あのですね、私、個性の応用として物を変形させるようになりたいと思っていまして、八百万さんの創造はどうやっているのかを参考にさせていただきたいと……」


どうしてそんな堅苦しいんですの、いつも通りでいいですわよ。と笑う八百万さん。


「私は、パーツを並べ、素材を選び、組み立てる……という作業を脳内でおこなった上で、創造しています」


変形の場合、素材はもう決まっている。だから重要なのは"組み立て"にあたる部分だという。

組み立てと変形とでは話が違うが、根本は似ている、そうだ。

組み立てはどのパーツをどこに配置するかが大切。一方、変形はどの部分がどんな形に変わるのか想像することが大切だという。

なんというか、難しい。


「漠然と『こんな形になればいい』と思っていませんか?私も最初はそうでしたわ。あれを作りたいとだけ思って頑張っていたんですの。

けれどそれじゃダメです。明確な工程を考えなければいけないと思います」


コンクリートを変形させるにしても、1度液状になり、形を変え、再度固まる、というイメージならば、より成功しやすいはず。


「このマトリョーシカで練習してみましょう。私が作ったものですから、気にせず使ってください」


受け取ったマトリョーシカは可愛く色付けされていて、練習台にするのが少し申し訳ない。歪になってしまったら再生しよう。


「まず……そうですね、これを棒に変形させましょう」





八百万さんはそれからというもの、ほぼ毎日練習に付き合ってくれた。おかげで小物を変形させるのは容易になっている。時々セメントス先生に個性を使うコツを聞きに行ったりした。コンクリートならあの人しか居ない。



そして今日。いよいよ体育祭当日。


飯田くんと学校へ向かう際、見かける誰もが浮き足立っていた。多分1年生が1番緊張している。テレビで見ているとは言え、実際に自分が参加するとなると、感極まる。


「楽しみだね!」
「あぁ!しかし、プロヒーローに見られるというのはプレッシャーだな」
「私、体動かないかも……」


体育というくらいだし、たくさん体を動かすだろう。運動において反射神経は絶対あった方がいいけど、私は割と考えてから動くタイプだから、全体的に遅い。

体育祭で活躍できるかはかなり不安だ。


「競走があれば、飯田くんは足を活かせるね」
「スピードだけが取り柄のようなところもあるからな、競走では負けられない!」


学校が近付くとプロヒーローもよく見かけるようになってきた。今年は例年の5倍に警備強化しているらしい。今までどれほどの警備だったかは知らないけれど、5倍にできるのが雄英の凄いところだと思う。


「兄さんも見てくれるといいんだが……」
「見てくれる!絶対!自分の大事な弟の活躍なら、誰だって見たいと思うよ!」


私の母だって見ると言っていた。朝は「怪我しないようにね、無理したらダメよ、ご飯抜きだからね」なんて、脅しをしてきた。無理はしないとやっていけないよ!





「みんな準備は出来ているか!もうすぐ入場だぞ!」

「コスチューム着たかったな〜」
「それじゃあ不公平だもん、しょうがないよ」


笑いながら会場に向かった。

プレゼント・マイクに『新星』やらなんやらと持ち上げられ、より緊張が高まる入場。

選手宣誓は入試1位通過だった爆豪くんが担当するが、普通科の生徒には「ヒーロー科の入試な」と嫌な視線を向けられる。嫉妬してるんだろ、ヒーロー科がすごいからって!


「せんせー」


シン、と静まり返った会場。高らかに奏でられる音楽がやけに大きく聞こえる。


「俺が1位になる」


途端に他クラスから「ふざけんなA組!」「ヘドロヤロー!」と罵倒の嵐が巻き起こる。爆豪くんのせいでA組全体が目をつけられてしまう。なんて迷惑な!だから爆豪くんは苦手なんだ、暴力的だし!


「さーて、じゃあ早速第1種目ね!いわゆる予選、種目は……障害物競走よ!」


1学年11クラスが総当たりでレースに望む。コースさえ守れば何をしたって構わない。本当に構わない?例えば前に行きそうな人の服の繊維を貰っちゃって、直しながら追いかける、とか?


「いや!これはズルい!ダメ!」



「位置について……スタートッ!」



ミッドナイト先生の掛け声と共に、体育祭の幕が開かれた。








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