地獄への道は善意で舗装されている。
□世の中は厳しい。
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騎馬戦のあとはお昼休憩だ。その後にレクリエーションを挟んで最終種目。トーナメント制で、参ったと言わせるか場外にさせることが勝利条件。爆豪くんなど色んな意味で凄いメンツが揃っているからとにかく楽しみ。何かインスピレーションが湧けばいいんだけど。
「私も戦いたかったなぁー!」
「轟とか?」
「と、轟くんは無理……」
後ろの席から上鳴くんが笑いながら言うので、コイツが轟くんと当たれば良かったのに、と思った。彼はB組の女の子と戦うらしい。負けてくれ。
「だが、水無月君の再生ならば氷も溶かせるだろう?」
「氷は良くても、炎があるじゃん……全然見たことないから余計怖い」
「確かに炎はあまり見たことがないな。ぜひ見てみたい」
どうして炎を使わないんだろう。せっかく恵まれた個性なのに。ヒーローを目指してる人にこんなことを言うのは失礼だけど、氷と炎なら大道芸が出来そう。
「お、緑谷くんだぞ」
「相手は普通科の人なんだね、すごい!」
ヒーロー科が上位を占めるなか、ここまで普通科が食い込むなんて。どんな個性だろう?
「なぁ尾白、あの普通科のやつ、どんな個性なんだ?」
「人を操る個性だ。あいつの問いかけに答えたら操られる。ある程度の刺激で解除はされるんだけどな……」
「敵に居たら怖い個性だね」
だけどヒーローにいたら心強い。よっぽど人としての理性がないならともかく、答えただけで操ることができるなら、ただそれだけの個性だとしても、向かう先に敵無し、だ。
ヒーローとして有名になってしまったら逆に効かないかもしれない。敵だって馬鹿ばかりではないし、コイツの問いには答えちゃいけない、と口を塞がれたりしたら、どうにもならない。
「動物は操れるのかな?」
「仮に出来るとすれば、使い方はかなりありそうだ」
でも返事をしなきゃいけないんだもんなぁ、動物は難しそう。
「呑気に話してる場合じゃない!緑谷が負けそうだぞ!?」
「いや!大丈夫だ!」
肩で息をしながら、口を覆う緑谷くん。緑谷くんは気弱に見えて案外感情的に声を上げる人だ。口を押さえていても喋ってしまいそう。
「頑張れ……!」
心操、という普通科の彼は、どうやら口割れずに焦っている様子だった。緑谷くんが何を思っているのかは分からないけど、最後はやっぱり声をあげて、心操くんを場外に出した。
心操くんは苦しそうな、悲しそうな表情だった。でも同じ普通科の人からの言葉や、プロヒーローの生の声を聞いて、緑谷くんに対する怒りみたいなものは薄まったみたい。最後には少し悪そうな笑みを浮かべていた。
「あの個性で色々言われたこともあったのかな……」
「彼には悪いが、それはもちろんあるだろう」
「だよね……結構ツラいんだろうなぁ」
私の個性は敵向きというわけではないけど、直せる個性だから、割と良いように使われたものだ。
鉛筆が折れたからとか、消しゴムが割れたから……それはまだ分かるよ。不便だもんね!
酷いときは壊れた化粧品グッズを直せと言われたりした。中学生で化粧って、今どき当然なの?ファンデーションとか、「カバンに入れてたら割れちゃって!直してもらえる?」なんて、断れるわけないでしょ。
だってスクールカースト上位の子だよ?私はクラスの中心でみんなを率いるタイプじゃないから、そういう人達には逆らえない。「直してもらえる?」は「直せ」って意味だ。学校は厳しい。
「仲良くもないのに、そういうときだけ寄ってくるんだから嫌んなっちゃうよね」
「俺はそんなことしない!」
誰も飯田くんのこと責めたりしてないよ。むしろ飯田くんには色々と恩があるし、何かを直しても直し足りないくらい。
「次は轟くんだ!炎使うかな……ぁぁあっ!?こ、氷ぃっ……!」
対戦相手の瀬呂くんだけでなく、審判のミッドナイト先生までも凍らし、客席すれすれに沿って会場外にまではみ出す巨大な氷の壁が、一瞬にして築かれた。
少し動けば氷に触れてしまう。氷とキスしそうな距離だ。瞬発力がスゴすぎる。
「瀬呂くん可哀想……」
「……ど、どんまい」
生徒だけでなくプロヒーローですら、どーんまい、とコールを始める。どんまいの大合唱はテレビでも放送されているはずだから、瀬呂くんはどんまいキャラが定着するだろう。どんまい。
「そろそろ控え室へ行かなくては」
「飯田くん頑張ってね!ここから応援してる!」
「あぁ、ありがとう!」
次の戦いは誰だったか、そう待ちに待った上鳴電気だ。対戦相手の塩崎茨さんは、見た目は可憐だが、ここまで来るんだから、なかなかやる人なんだろう。
「あっ」
一瞬のうちに上鳴くんは体を拘束された。電気の出しすぎでウェイウェイしてしまっている。骨格から変化するあの現象はいつ見てもすごい。
ざまぁみろ、と呟いたが、やはりクラスメイトが負けるのは残念だと思った。