地獄への道は善意で舗装されている。

□試合に勝って勝負に負けた。
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さて、次は飯田くん対サポート科の発目さんだ。発目さんがフル装備なのは分かるとして、飯田くんまでもが同様にアイテムを身につけている。障害物競走では「ヒーロー科は普段から実技をしているから、公平のためにサポート科は使用が認められている」とか言っていたのに、「ここまで来た以上は対等に戦いたい」とアイテムを渡されたそうだ。

言ってることがちょっと違う気がする。私なら、可能な限り勝ち進みたいから、相手に有利になるようなことはしたくない。


「素晴らしい加速じゃないですか飯田くん!普段よりも足が軽く感じませんか!?それもそのはず!そのレッグパーツが着用者の動きをフォローしているのです!」
「……え、マイク?」


通販番組のような解説とともに繰り広げられていく鬼ごっこ。飯田くんがどれだけ頑張ろうと、発明さんはあれやこれやとアイテムを使いヒラリとかわす。例えば爆豪くんや先程の塩崎茨さん、それから心操くんなど、遠くからでも狙うことが出来る個性なら鬼ごっこはすぐに終わっただろう。

でも飯田くんの個性はエンジンで、近づかなければどうにもならない。


「余すところなく見ていただけました。思い残すことはありません!」


生き生きとした、やり遂げた様子で自ら場外に出た発目さん。これのためだけに勝ち進んだのか。運で決まったとはいえ、飯田くんならすぐに戦いが終わることもなく、利用するには持って来いだったかもしれない。


「すごく……図太いね」
「騎馬戦でもあんな感じだったよ……」


緑谷くんは苦笑いを浮かべた。

なんか苦手だ。アイテムが良いものだったとしても、あの人とは関わりたくない。マシンガントークをされても困ってしまう。


「私、控え室に行かなきゃ」


お茶子ちゃんが立ち上がった。お茶子ちゃんの対戦相手は爆豪くん。あの爆豪くんが「女の子だから遠慮して爆破しない」なんてことはなさそう。殺しにかかるような真似はないとしても、怪我の恐れは捨てきれない。


「お茶子ちゃん。応援してるね。爆豪くんが私の大切なお茶子ちゃんを傷つけたりしたら、私が爆豪くんをシメに行く!だから……安心して、行ってきてね」


体育祭なんだから怪我くらいは当たり前かもしれない。危険なのも当たり前だろう。それでも立ち向かわないと行けないのがヒーローだ。簡単に逃げられない。


「うん、ありがとう。でも、それこそ咲涼ちゃんが怪我したらあかんよ!私、頑張るから。見てて!」


お茶子ちゃんが控え室へ行って、それを追いかけるように緑谷くんが席を外してしばらく。飯田くんと緑谷くんが一緒に戻ってきた。


「飯田くん大変だったね」
「あぁ、売り込み根性のたくましさに驚いた」


切島くんとB組の男の子との対決は、失礼ながら地味だった。どちらも似たような固くなる個性で、殴り合いの末にドロー。体力回復してから腕相撲で決着をつけるそうだ。


そしてお茶子ちゃん達の試合。スタートの合図と同時にお茶子ちゃんが走り出す。もちろん爆豪くんを浮かすために。無重力という個性はすごいものだけど、触らなければいけない。爆豪くんの個性では近付くことだってままならないはずだ。


「本当に容赦ない……!」


どれだけ飛ばされても、どれだけ傷ついても、お茶子ちゃんは爆豪くんに立ち向かっていった。ただ痛めつけているようにしか見えないその状況に、次第にブーイングの声があがる。

実力差があるならさっさと終わらせろ。審判は何をやっているんだ、なぜ止めない。


解説席に居た相澤先生が、その声に対し「今文句言った奴ら、プロ何年目だ?気づいてねぇならヒーローやめちまえ」と厳しい言葉を投げた。

思わず驚いて視線をあげると、ちょうど目線の先に、たくさんの破片が見えた。ふわふわ浮いている。お茶子ちゃんの個性だろう。


「かっちゃんは麗日さんがどんなことを考えているのか警戒してると思う。これからどうくるのか……。かっちゃん自身は正面突破が基本だけど、不意打ちだって立派な作戦だよ」


お茶子ちゃんが、ぴたりと、両手を合わせた。個性を解除された破片は重力に従い落ちていく。爆豪くんは驚いた様子だ。

だが、彼には行き当たりばったりな戦いを可能にさせるだけの反応速度があった。大量の破片をたった一度で消し去るだけの力があった。


それを目にしたお茶子ちゃんは、一歩踏み出したけれど、支える力すらなく、体勢を崩して倒れ込む。試合は続けられない。爆豪くんの圧倒的な勝利だった。


「お茶子ちゃん、大丈夫かな……」
「あんな倒れ方をするくらいだ。限界は超えているだろう。だがリカバリーガールがいる!彼女に任せれば安心だ」
「飯田くん……そ、そうだよね!」


無理しないで帰ってきてくれたら、それでいい。







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