地獄への道は善意で舗装されている。

□ミステリアスな優等生・轟焦凍。
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お茶子ちゃんの戦いは終わり、時は進んで緑谷くん対轟くんの試合。轟くんは氷で動きを封じるのが主だったが、緑谷くんは例の個性でそれを阻んだ。

けれど腕部はだんだんと傷ついていき、ドラマなどですら見たことの無いグロテスクな色になる。それでも彼はやめることなく轟くんに立ち向かった。


君の!力じゃないか!


緑谷くんの叫びは轟くんに届いたのだろうか。轟くんが何かを呟いていたように見えるが、ここでは聞こえない。ただ、少なくとも、緑谷くんは何かを変えた。


頑なに使われなかった炎が辺りに広がり、轟くん自身の服すら燃やしてしまう。それを見た轟くんの父、エンデヴァーが「俺の野望をお前が果たせ」と激励を送った。


エンデヴァーは確かにすごいヒーローだけど、オールマイトとは決定的に何かが違って、ナンバーツーがナンバーワンを越えることはないと、はっきり分かってしまう。

エンデヴァーは轟くんに何か期待しているのかもしれない。だから俺の野望を、なんて言うのかも。轟くんは近寄り難い雰囲気を持っていて、家庭で何かあってもおかしくないような人だけれど。



緑谷くんと轟くんの衝突により、物凄い爆風が会場を襲う。後ろでは峰田くんが飛ばされそうなところを助けられていた。

やがて煙は晴れていき、場外の壁にもたれかかる緑谷くんが現れた。両腕が怪我をしている。粉砕骨折していてもおかしくないんじゃないか……。


緑谷くんは担架で運ばれた。心配で心配で仕方ないお茶子ちゃんと飯田くん、それから梅雨ちゃんや峰田くんと一緒に、リカバリーガールの元へ行く。


「あっ……みんな先行ってて!」


廊下に設置されていた自販機。当然ながら色々な飲み物があったので、緑谷くんへのお見舞いに持っていくことにした。

ミネラルウォーターを買ってまた走る。治癒してもらうとはいえ、あの怪我じゃ持てないだろうか。痛むかもしれない。ストローなんて持ってないし……八百万さんに作ってもらうのも手だけど、仮にも人の体から出たものには口をつけたくない……だろうか。


「やばい、どこだっけ……!」


通路なんてどこも似たような造りだから分からない。誰か1人でも残ってもらえば良かった。


「あぁもう急いでるのに!リカバリーガールどこー!……ぅわ!ぇ、エンデヴァー!?」


少し先の曲がり角からやってきたナンバーツー。貫禄や迫力はかなりのもので、その炎からも畏怖の念を抱いてしまう。


「……何か?」
「あ、いや、あの!私、いつも轟くんに…………お世話になっております!さっきの試合すごかったですねぇ!優勝しちゃうかもしれませんねぇ!」


プロヒーローと向き会うことなんてほとんどないから、無駄に緊張して、無駄に喋った。轟くんとは話したことすら数えるくらいなのに、お世話になっておりますなんて!そんなの嘘にも程がある!

ほぅ、と息を吐いたエンデヴァー。少しだけ近付いてきて話を続けた。どうして轟くんの話題を出したんだ!長くなったらどうしよう!


「君はクラスメイトかな。普段の焦凍はどんな様子だろう」
「えーと……みんなからは、一目置かれてます。私も轟くんのこと尊敬してます、でも正直あんまり話したことなくて!わ、私とは、次元が違います。あはは!」


申し訳程度に笑って誤魔化し、「轟くんの次の試合、始まっちゃうかもしれません!」と道を譲る。元から邪魔していたつもりもないけど。

プロヒーローとこんなにも話してしまった!喋ったのは私ばかりだったが話したことに変わりはない。でもどうせ話すならもっと優しそうな人が良かったなぁと心から思った。


「そうか」


エンデヴァーは私の横を通り過ぎて数歩、不意に立ち止まった。振り返ることもなく「リカバリーガールはその角の先に居たようだが」と言い、立ち去った。


「あ、ありがとう、ございます」


言われたとおり進めば、「出張所」と書かれた可愛い看板のある部屋を見つける。なんだ、エンデヴァーだって優しい面はあるんだ。


3回ノックして入ると、腕に包帯を巻いた緑谷くんが椅子に座り、金髪の人と話をしていた……様子だった。


「水無月さん!?」
「お、遅くなりました……」


飯田くん達はもう既に帰ったそうだが、まだ放送はなってないし、時間もあるはず。とりあえず間に合って良かった。


「お水持ってきたの。脱水になったら困るでしょ」


やっぱり緑谷くんはペットボトルを持てなさそうなので、どうにかペットボトルをストロー機能付きに変形させた。かなり不格好だったが、それでも緑谷くんはありがとうと言ってくれた。


「この子に話があるんだ。試合も始まってしまうよ、戻りな」
「はい。緑谷くん、お大事に!失礼しました」


今更ながら金髪の人は誰なんだと思ったが、試合開始の放送がかかってしまい、ない体力を使って全力疾走しなければならなくなった。








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