地獄への道は善意で舗装されている。

□体育祭、お疲れ様です。
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「準決勝!飯田天哉VS轟焦凍!」

「嘘っ!?もう飯田くん!?」


飯田くんの次の対戦相手は塩崎さんじゃなかったの!?それにその後だって色んな人の試合があったはずなのに!


「始まった!」


観覧席に戻るほどの時間はなかったので、席の後方で立ち見することにした。戻る途中でプロヒーローをお手洗いに案内したからこんな遅くなっちゃったのかな。お昼の間に行っといてくださいよね、トイレくらい。生徒の試合を見るために来てるんでしょうが!


「うわ、レシプロ速いなぁ」


飯田くんは、轟くんの氷を避けつつ、レシプロバーストで攻撃に転じた。伏した轟くんの服を掴む。場外に出すのだろう、走り始めた。レシプロバーストも数秒しかもたないと先程聞いたから。


「飯田くん!?」


彼は突如動きを止め、たちまち氷に覆われてしまった。行動不能で、敗退。もう少しだったのに。


ため息をついて席に戻った。


「咲涼ちゃん遅かったね!?」
「色々あって……飯田くんの試合は後ろで見てた」


しばらくしたら常闇くんと爆豪くんの試合が始まった。その頃には飯田くんも戻ってきて、私の隣に座った。


「残念、だったね」
「あぁ……だが諦めないぞ、来年こそは優勝だ!」


そのためには今戦っている2人の戦いも見ないと。来年、自分が戦うかもしれない相手だ。弱点や癖なんかも知っておいた方がいい。……緑谷くんのノート見たい!


何度も爆破が起こり、あんなに強かった常闇くんが、気付くと押さえられてしまった。あぁなってしまっては、爆豪くん相手に逆転は出来ないだろう。


「決勝は爆豪くんと轟くんかぁ……」
「どちらが勝つだろうな」


私は轟くんに一票!もし爆豪くんが負けてしまったらどうなるんだろう、逆上してしまいかねないのでは。


「飯田くん!?」
「……電話だ」
「電話ね」


人間には出来そうにない速度で震え始めた飯田くんに驚いたが、電話だと聞いて安心した。いや!電話のバイブレーションで体が震えるのはおかしいんだけど!

でもなんか、飯田くんっぽいな、と思う。



決勝戦が始まる頃には飯田くんが戻ってきた。その表情は暗く、突然だが早退させてもらう、と言った。


「兄が、敵にやられた」
「インゲニウムが!?だ、大丈夫、なの?」
「怪我や出血が酷く、病院で療養されているそうだ……」
「と、とにかく、早く行ってあげて……!」


飯田くんは小さく頷いて、勢いよく走り出した。既に轟くんと爆豪くんの衝突は激しさを増し、観客も盛り上がっていた。決勝ともなれば当然だ。

けれど私は、お兄さんが心配でそれどころではなかった。家族を呼ぶほどの怪我なんて、一体どれほど酷いのだろう。敵とは誰なのだろう。もう捕まったのか、それとも。

きっと治るよね。あの日みたいに、私のことを助けてくれたみたいに、またヒーローとして……。そうじゃなきゃ、あんまりではないか。



「水無月」
「な、なに、耳郎ちゃん」
「アンタが気に病むこと、ないでしょ」


いや、ごめん、ちょっと聞こえちゃって。インゲニウムがアンタのこと助けてくれたとか、聞いたことあったし。

耳郎ちゃんはそう続けた。


「すごく、心配で」
「ヒーローなんだよ?そんな簡単に負けたりしないって!安心して待ってなよ」
「……そうだね!」


耳をつんざく爆音が響いた。ステージは氷などの破片が舞い、崩れた瓦礫の上に力なく轟くんが倒れていた。場外に出したことで爆豪くんの勝ち。けれど納得がいかなかったのか、爆豪くんは轟くんに掴みかかった。それはミッドナイト先生により止められたけど、妙な雰囲気のまま表彰式になってしまった。



生徒は会場中央に集まり、メダル授与をすることになった。1位は爆豪くん、2位は轟くん。3位は常闇くんと飯田くんだが、飯田くんは早退のため居ない。


「なにあれ」
「起きたときから暴れてんだと」
「あんな1位やだね……」


爆豪くんは体中を縛られ、それでもなお暴れていた。何を言ってるか分からないけど大声を上げていて、動くところはとにかく動かし、その様子にA組ですらドン引きしている。


1位になったんだからいいじゃん、とは言わない。爆豪くんは「完膚無きまでの1位」に固執していたようだし。本人のこだわりがあるのは、まぁいい。

でも敗退してしまった側からすると「それなら1位もメダルもこっちにくれよ」と思ってしまう。負けたのは私たちのせいだが、あぁいう態度は腹が立つ。「完璧な1位じゃないから要らない」じゃないでしょ、完璧な1位を取ることが出来なかったのは自分のせいなんだ。甘んじて受け入れるべきだろう。


……どれもこれもただの妬みにすぎないけれど。



「私もオールマイトからメダル貰いたい!」
「来年!リベンジ!絶対!」









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