地獄への道は善意で舗装されている。
□魔法使いだなんて夢がある。
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体育祭の翌日は振替休日で、それぞれ自由に過ごしたようだった。私は、まぁ、家でだらだらと……。一度お兄さんについて飯田くんに連絡してみたが、返事は来なかった。
そのまた翌日はもう登校日。いつもの時間になっても飯田くんは来ないので、先に行くと連絡して家を出た。
「魔法使いのお姉ちゃんだ!」
「えっ?」
知らない子供に指をさされた。何のことか分からなかったが、その子のお母さんは「こら!」と怒り、事情を説明してくれた。
この子は昨日の体育祭で、私が障害物競走で変形と再生を使ってたのを見ていたそうだ。テレビじゃ具体的にどんな個性かは分からなかったそうだけど、この子も似たような個性みたいで、雄英カッコイイ!なんて言ってくれた。
「頑張ってください。応援してます」
「ありがとうございます!」
「ばいばーい!」
「バイバイ!」
学校付近で、前方に人が見えた。そりゃあ通学路だから当たり前なんだけど、赤い映える靴とカバンに見覚えがあった。
「緑谷くん!おはよー」
「あっ水無月さん!おはよう」
昨日はちゃんと休めた?とか、朝から色んな人に話しかけられて疲れた、とか、そんな話をした。緑谷くんは、私よりも話しかけられたみたいで、大変だなぁと思った。
「2人とも!遅刻だぞ!おはよう!」
「あ!飯田くん、おはよう!」
「遅刻って、まだ5分くらいあるよ?」
「雄英生だ、10分前行動が基本だろう!」
真面目だ、さすが飯田くん。
気になるのはお兄さんのこと。返事が来なかったのは、出来なかったんじゃなく言いたくなかったのかもしれない。踏み込みすぎるのも良くないし……。
「水無月君、連絡をくれたのに返事を出来なくてすまない。……兄の件なら心配ご無用だ。要らぬ心労をかけてすまなかった」
私たちの気持ちがわかったかのように飯田くんは言った。その様子はいつもと変わらないように見えたけど、やっぱり悲しそうにも見えた。
「飯田くん、何かあったら言ってね。インゲニウムにも飯田くんにも、返しきれない恩があるから……何か力になりたい!私が怪我を治せる個性なら良かったんだけど……」
生物だけは、絶対に直せない。今まで何度も試したし、何度も練習してみたし、だけど治療は専門外だった。
「気にしないでくれ、大丈夫だ。それより、もう予鈴が鳴ってしまうぞ!」
「やばい!」
「急ごう!」
廊下を走るのはダメだけど、遅刻よりは!と飯田くんを説得し、予鈴ギリギリになんとか滑り込みセーフ。
直後、包帯のとれた相澤先生が入ってきた。あんなに包帯ぐるぐるだったけど取れて良かった。
「今日のヒーロー情報学、ちょっと特別だぞ。コードネーム、ヒーロー名の考案だ」
「胸ふくらむヤツきたァッ!!」
体育祭を終え、プロヒーローからは"指名"が来る。上位に入れば入るほどもちろん指名は多くなるが、その指名がどうなるかというと、1週間ほど職場体験に行くことになるのだ。
職場体験では、普段公共の場では着れないヒーロースーツを着ることができるし、プロの仕事に立ち合うことでよりヒーローの理解を深めることができたりする。体験自体は指名がなくとも全員向かうが、1年生の段階で来る指名は「この生徒が欲しい」ではなく「将来性の有無に対する興味」。プロだって、実際に、もっと間近で見たいことだろう。
指名がないからと落ち込むこともない。指名の本格化は来年から。恐らくその際は、もっと個性を鑑みて指名してくるのではないか。
とにかく、職場体験に行くので、ヒーロー名考案、ということらしい。
「仮とはいえ、ここで適当なもんつけたら……」
「地獄を見ちゃうよ!このとき決めた名がそのままプロ名になってる人、多いからね!」
ミッドナイト先生が教室に入ってきた。相澤先生はヒーロー名がどうとか、得意じゃないそうだ。だからミッドナイト先生に査定してもらうために来てもらったらしい。
ヒーロー名はどうしようと考えたことはある。でもネーミングセンスがないから、あれこれ出しても、これ!というものが出なかったんだ。最近は変形もできるようになったし、それもちょっと含めたいなぁ。
しばらくすると、ミッドナイト先生が「決まったかしら?それじゃあ発表していってね」と言った。発表するの?まじかぁ。
私も早く考えないと、と思っていたら、朝会った子供のことを思い出した。魔法使いかぁ。
「再生ヒーロー、ウィッチクラフト。……です」
「魔女術って意味ね!魔法使いをテーマにキャラ付けするのかしら?プロヒーローでも忍者をテーマにした人も居るの。そういうのは人に覚えてもらいやすいし、とてもいいと思うわ!」
私は魔女じゃないけど、もっともっと個性を高めていけば、そんな夢のあるヒーローになれるかもしれない。
とりあえずコスチュームを魔法使い寄りにしなきゃいけない、と思った。