地獄への道は善意で舗装されている。

□ヒーローにとって大切なこと。
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「お、可愛いコスチュームだね!似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます……!」
「なんだか、魔法使いみたいだ。その腰につけてるのは杖に見えるし」
「そうなんです、そういうのを、ちょっと意識してます……帽子は邪魔なので被ってないんですけど」



以前は鉄パイプを腰につけていた。だけどそれじゃあまりにも暴力的すぎる。今は変形することができるから、現地でいくらでも武器を手に入れられるので、身につけるならと杖に模したものに変更した。これで直接戦うかどうかはともかく。


だけど杖にだって意味はあった。

人間の体には常に微弱な電気が流れていて、だからこそ"心電図"と言ったりするのだが、私の場合は個性を使うとき、その電流が信号に変換される。そして手の平などから放出することで直せるわけだ。

この杖は電気伝導率の高い物質で出来ているので、杖に電流を通し、それを変換して杖の先から出すと指向性の補助になる。

元は電流だが、信号に変換してしまえばゴムにだって効くのだ。意外と凄いんだぞ!



「シーソウル、ウィッチクラフトが困ってますから早くしてあげてください」
「あぁ、そうだね!ごめんよ。えぇと、じゃあ今日はこの街のパトロールをしようか」


早速外に出た。ヒーロースーツで歩くのは少し恥ずかしい。コスプレみたいだし。


「パトロールは基本毎日やってる。ヒーローが居るだけで敵の抑制に繋がるからね。俺は夜に行うことが多いよ」
「夜の方が色々起きそうですもんね」
「そうそう。酔っ払いとか」


しばらくヒーローについての説明が続いた。

基本的な仕事は犯罪の取り締まりで、事件発生時など警察からの要請があった際に出動する。ヒーローに逮捕などの権限はないので、ヒーローと警察の協力は必須なんだそうだ。


「ここからはちょっとだけ下世話な話なんだけど大事なことだから話すね。
逮捕協力以外にも人命救助とか、色々ヒーローの仕事があるけど、俺らは貢献度を申告して、専門機関の調査の後に給料を貰う」


頑張れば頑張るほどお金が入るけど、出費が多いこともあるそうだ。例えばMt.レディ。彼女は貢献度こそ高いが、その巨大化の個性により街を破壊することが多く、その費用の支払いがかさんで利益と損失がトントン(という噂をきいたそうだ)。

誘拐事件なんかだと、人命救助と犯人逮捕が同時に行われるので、貢献度も高い。
街の修繕だって立派な仕事だ。……お金もらえるかなぁ。


「歩合制である以上ヒーロー同士は商売敵なんだけど、その反面、仲間でもある。自分の利益を優先して一人で突っ走って、その挙句に被害を出してる人間にヒーロー名乗る資格はないと俺は思う」


時には協力だって必要。ヒーローだから自分を犠牲にしろというのではないが、そういう身勝手な人間は、たいてい大事なことが頭から抜け落ちている。

何を思って目指したのか、誰だってそれは人を助けるヒーローに憧れたからではないだろうか?いざ自分がヒーローになってみるとそんな簡単なことすら忘れてしまう。大人になるというのは残酷だ。


だけどね、とシーソウルは続けた。


「そういう人は絶対居るんだよ。仕方ないとは思う。だからこそ仲間である俺たちが道を正してやらなきゃいけない」



「もし俺が道外れたら、助けてね」なんて笑うから、そんな立派なこと考えてる人が簡単に変な道には行かないでしょう!と返した。


「真面目な人ほど簡単にどうにかなっちゃうもんだよ、俺だって昔は色々あったし」
「例えば?」
「若気の至りってやつさ。原因は覚えてないけど、倒れるまで友達と殴りあってめちゃめちゃ怒られた」


そいつとは今も仲良しだけどね!と笑った。卒業アルバムの個人写真が怪我した状態の顔だそうで、さすがに恥ずかしいと彼は呟く。いい思い出だなぁ。





次の日は、ミニスクールが開かれた。たくさんの子供が事務所の一角にやってきてシーソウルに挨拶をする。

彼の子供に対する姿勢はとても厳しかったが、それだけ愛情があるように思えた。子供たちも笑顔だ。



「子供たちはシーソウルのことが大好きなんですね」
「そうだと嬉しいね。俺に妻子は居ないけど、あの子達みてるだけで楽しいよ」



仕事を終える前、「明日は保須の方に行こうと思う」と言われた。

ヒーロー殺しが現れて数日経ったが、また現れてもおかしくないという。今までの統計上、ヒーロー殺しは同じ場所に何度も出現している。


「君を連れていく危険性は重々承知だ。ヒーロー殺しに遭遇する可能性もなくはないから。だから、君が嫌だと言えば行かない」
「……いえ、行きます!」


ヒーロー殺しが出現し、微力ながら逮捕の手伝いをできたら。そんな期待に意味は無いと分かっているが、夢をみずには居られなかった。

絶対に許せない。あいつは早く裁かれるべき存在なんだ。


「じゃあ、明日の午前中は体術の練習をしよう。保須へは午後から」
「了解です」


都合よく現れてはくれないか、と心から願っていた。









(オリジナルキャラクターをたくさん登場させてしまいすみません。筆者自身、オリキャラが出ている夢小説というのは好きではないのですが、流れ的に出さざるをえない感じになりました。しかもシーソウルってめちゃめちゃダサいですよね。これからの出番は少ないです。本当に申し訳ありません。)
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