地獄への道は善意で舗装されている。

□貴方はヒーローだ。
1ページ/1ページ




私は、飯田くんや轟くんたちの後ろに下ろされた。この頃にはもう左腕の感覚はなく、動かしても痛いなんて思うこともない。



「感化され取り繕っても無駄だ。人間の本質はそう易々と変わらない。お前は私欲を優先させるニセモノにしかならない」


人殺しの言葉だ、耳を貸すなと飯田くんに言った轟くんだったが、飯田くんは首を振った。


「言う通りだ、僕にヒーローを名乗る資格はない。それでも、折れるわけにはいかないんだ……俺が折れれば、インゲニウムは死んでしまう」


ステインが動く。轟くんが炎で牽制し、近づけさせないようにした。両手をついて先程の竜巻を出そうとしたが、意識すればするほど出来なくなっていく。


「水無月君!危ない!」
「ご、ごめっ……!」


飛んできた短剣が飯田くんの腕に刺さる。大丈夫だ、と呟いた飯田くんは、足についた冷却装置を直してほしいと言った。


「もちろん!」


手をかざしたら、おかしな音をたてていたエンジンの調子が戻ったようだった。少し安心して油断してしまい、投げられた別の短剣が太ももに深く刺さる。力が抜けて座りこんだ。


「水無月!?」
「気にしないで!早く!」


飯田くんは高く飛び上がり、思いっきり、ステインを蹴り付けた。同時に緑谷くんの拳も顔面に入り込む。



「お前を倒そう!今度は……犯罪者として、ヒーローとして!」



飯田くんの蹴りが再度入り、轟くんの炎がステインの上半身を襲った。氷の上に力なくうなだれるステインは、もう動きそうになかった。


「さすがに気絶してる……?」
「縛って通りに出よう。武器も外すぞ」


ステインを縛り上げて、みんなで通りに出た。そのときにはプロヒーローも動けるようになっていて、足を刺された私は彼におぶられていた。


「すみません、おぶってもらっちゃって……」
「さっき俺は何も出来なかったんだ。気にしないでくれ」


これからどうするか、という話になった。まずは誰かプロヒーローを探さなければならない。私たち雄英の生徒は、それぞれ職場体験先のヒーローと合流するべきだし、何よりいつまでもステインを私たちだけで連れ回すわけにはいかない。もし起き上がって反撃されたら、もう手負いの子供じゃあ太刀打ちできない。


「むっ!?なぜお前がここに!座ってろっつったろ!」
「グラントリノ!ごめんなさい!」


近くの道から姿を現したのは、黄色いマントを風に揺らす、小さなおじいさんだった。緑谷くんの職場体験先なのかな。……ちょっと可愛い。



「あっ!居たよ!」
「ひどい怪我だ、救急車呼べ!」


別の道から、たくさんのプロヒーローがやってきた。シーソウルは……居ない。彼は無事だろうか。

ヒーローたちは、エンデヴァーに言われて轟くんを探していたという。そのエンデヴァーは敵と交戦中らしいが、そういえば、2人はどうして助けに来てくれたんだっけ……。


「ヒーロー殺しは君たちだけで?」
「コイツはプロの方に引き渡しておきます」


轟くんがロープをプロヒーローの1人に手渡すと、ヒーローたちが少しざわざわした。質問には誰も答えなかったけど、何となく察したのかもしれない。

今まで黙っていた飯田くんが、ゆっくり口を開いた。


「3人とも……僕のせいで怪我をさせてすまなかった……何も見えなくなってしまっていた……!」



なんで言ってくれなかったの。復讐するなんて飯田くんらしくないよ。頼ってもらえるくらい強い人間じゃない自分が、すごく不甲斐ない。私、結構ショックだな。

言いたいことは色々あったけど、出てきた言葉はどれでもなかった。



「"インゲニウム"を見殺しにするわけにいかないでしょ、仲間だもん」
「あぁ、水無月の言う通りだ。しっかりしてくれよ、委員長だろ」


だけど、怪我も回復して、また元気になったら、言いたいこと全部言おう、と思った。



一安心したのも束の間、どこからか飛んできた敵が、緑谷くんを引っ掴んで行ってしまった。敵は怪我をしていて、血を流しながら飛んでいる。ここに空を飛べる人間は居ない。プロヒーローが動くよりも早く、拘束を解いたステインが敵の落とした血を舐めた。

翼を動かせずに落ちてきた敵を一突きで殺したステイン。緑谷くんを助けた、のか。



「全ては正しき社会の為に」


そこへ、エンデヴァーがやってきた。自分が逃してしまったくせに、動けなかったプロヒーローたちに怒っていた。


「エンデヴァー……ニセモノ……!」


ステインがゆらりと立ち上がり振り向く。その顔は私たちが戦っていたときとは比べ物にならないほど、殺意に満ちていた。


「正さねば……誰かが血に染まらねば……英雄を取り戻さねば!
来てみろ、ニセモノ共……俺を殺していいのはオールマイトだけだ!


ステインは気を失った。立ったまま、一歩踏みだした状態で。誰も血を舐められていないのに、縛られたように動けなかった。えもいえぬほどの恐怖を感じたのだ。それでも、目をそらすことは出来なかったのはどうしてだろうか。


結局、みんなが動けたのは、救急車のサイレンが鳴り響いたときだった。







次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ