地獄への道は善意で舗装されている。

□冗談でも何でもなくて。
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目を覚ますと、真っ白で綺麗な屋根が視界に入った。起き上がろうとしたが痛みが走り、微妙に上体を起こした姿勢で止まる。昨日は感覚がなかった左腕も、痛みを感じるくらいには回復したようで良かった。今は痺れたような感じで、手の平を握ったり開いたりするのも上手くできない。


ベッドの周りはカーテンで仕切られていて様子が分からないし、誰かが来る気配もないし……。

みんなはどこだろう?



「起きたのね、具合はどう?」
「あっ、大丈夫、です」


看護師さんがやってきた。彼女はクリップボードを持っていて、怪我の具合を教えてくれた。

刺された左腕や右太ももの傷は、そこまでひどいわけではなく、きちんと治るが、痺れのようなものは今すぐはとれない、と言われた。日々の生活を続けるうちに、薄らいでいくそうだ。

それに、どちらも傷痕は多少残ってしまう。看護師さんは「女の子なのに傷痕なんて……」と言ってくれたが、私のしては名誉の傷痕だ。私の自己満足だったとしても。



「あの、飯田くんとか……昨日、私の他に運ばれた人がいたと思うんですけど……」
「あぁ、男の子3人ね?隣の病室よ。彼らも心配していたし、行きましょうか。歩ける?」
「歩け、ないです」


立ち上がることは出来た。でも足を踏み出せない。それどころかずっと立っているのもつらいほど。


看護師さんは個性の使いすぎかもしれない、と言う。昨日は確かに、変形ばかりしていた。あの竜巻なんて火事場の馬鹿力で作れただけで、今の私にはやろうと思ってもできないだろう。


「詳しい話は分からないけれど、昨日、敵と戦ったんですってね。それで自然とリミッターが外れちゃったんだわ」


100%の力を出せば体が壊れてしまうから、そうならないためにリミッターがある。昨日のステインとの戦いは制限をかけたままどうにかできるものじゃなくて、無理をしてしまった結果、限界を超えてしまった。

だから反動で今、動けなくなっている。


「また無理をすると良くないわ。今は車椅子で移動しましょ」


私の病室は4人部屋だった。けれど、おばあさんが1人居るだけで2人分のベッドは空いていた。

隣の病室は轟くん、緑谷くん、そして飯田くんの3人のみ。みんな包帯を巻いていたりしたけど、元気そうだった。


「水無月君!大丈夫かい!?」
「足の怪我酷いの!?」
「手、大丈夫か……?」


病室に入った途端、3人から矢継ぎ早に質問が飛んでくる。私は聖徳太子じゃない。看護師さんは、にこにこしながら出ていった。



「個性の使いすぎでちょっと動けないだけだよ。怪我の方は、傷痕は残っちゃうけど、全然大丈夫!」
「水無月、手は……」
「左腕がちょっと動かしづらいかな……痺れてる感じで」


それを聞いた轟くんは「くそ、やっぱりハンドクラッシャーだ……」と呟いた。ハンドクラッシャーって。


「なにそれ?」


詳しく聞いたところ、飯田くんの左腕は後遺症が残ってしまうらしい。痺れや動かしづらさがあるといい、私の場合はじきに薄らいでいくものだが、彼の場合は手術をすれば治る可能性がある、そうだ。

そして緑谷くんは、以前から個性の反動でよく怪我をしており、体育祭の轟くんとの試合なんか、かなり大変な怪我だったとか。

2人とも、そして私も、腕部に怪我をした。私の左腕の怪我は轟くんが来る前に負ったものだけど……。


「たぶん、水無月が腕を斬られたのは俺が来る予兆だ……」
「よ、予兆ッ!」



皆で笑ったとき、病室の扉が開かれた。そこには3人のプロヒーローと、スーツを着た犬(みたいな人?)が居た。シーソウル、無事だったんだ……!



「やっと全員揃ったな。お前らに来客だぞ。保須警察署署長の、面構犬嗣さんだ」
「しょ、署長!?」
「掛けたままで結構だワン。……君たちがヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒だワンね」
「(ワン……!)」



面構署長自ら出向いてくださったのは、かなりの事情があるようだった。

私たち生徒は、ヒーローの免許をもっていない。保護管理者の指示がなく、公共の場で盛大に個性を使い、そのうえ危害を加えてしまったことは規則違反である。

故に、私たちとプロヒーロー、計8名には相応の処分が下されなければならない。以上が警察の意見。


「で、処分云々は"公表すれば"の話だワン」


公表すれば、溢れんばかりの称賛を浴びるかもしれない。しかし、処罰は確実なものとなる。その反面、公表しないとすれば、火傷の跡を使って、エンデヴァーを功労者に仕立て上げることができる。

それもまた違反となってしまうのだが……。


「どっちがいい!?1人の人間としては、前途ある若者たちの"偉大なる過ち"にケチをつけさせたくないんだワン!」


私たちはしてはいけないことをした。誰かを助けるためとはいえ、ダメなものはダメなんだ。それなのに、警察に違反をさせてまで守ってもらえるなんて、ありがたいではないか。



「褒められたいからヒーロー殺しを捕らえたわけじゃ、ないんです」


皆で、お願いしますと頭を下げると、署長は同じように頭を下げ、「せめて、共に平和を守る人間として、ありがとう!」と、力強く言った。



どちらにしても監督不行届で処分を受けるというプロヒーローの方々には、大変な申し訳ないことした……。







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