地獄への道は善意で舗装されている。

□仲間ですからね!
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署長やプロヒーローたちが帰ったあとも私たちは話を続けた。以前は怖くて話しかけられなかった轟くんも、先程のハンドクラッシャーのおかげで、案外気軽に話すことが出来た。



「緑谷くんたち、なんで助けにきてくれたの?聞いてなかったよね?」
「あー……ほとんど偶然、なんだけど……」


緑谷くんは渋谷にいく新幹線に乗っていたところ、車両に脳無……あの化け物とプロヒーローが突っ込んできた。それがちょうど保須市だった。

街中に向かうと、ちょうど飯田くんを呼ぶマニュアルさんを見つけて、「飯田くんはヒーロー殺しを見つけてしまったのかもしれない」と思った緑谷くんは、飯田くんを探し始める。

狭い路地をしらみ潰しに探していたところ、たまたま轟くんに出会い、事情を説明した。すると轟くんは一緒に探してくれると言ったそうだ。



「轟くんが来てくれるとは思わなくて驚いたよ」
「どうせアイツは敵なんか自分で終わらせちまうからな、俺が居なくても別に良かっただろ」
「でも、別行動するなんてすごい怒られたんじゃないの?」
「アイツが怒るのなんかいつものことだ。それに、クラスメイトがピンチかもしれねぇなら行くしかねぇだろ」


轟くんは当たり前のように言ったけど、以前は「馴れ合いなんかしねぇ」みたいな雰囲気をいつも出していたように思う。何より入学してすぐくらいにあった模擬実戦のときだって、私たちは同じチームだったけど、一言も会話しなかったはずだ。

よろしく、と言っても返事すら来なかった記憶がある。


それを考えると、轟くんは急に人が変わったなぁ。炎だって、昨日はたくさん使っていた。



「轟くんと合流してすぐくらいかな、飯田くんのヘルメットが通りに落ちてるのを見つけたんだ」


それで路地裏を覗けば私が刺されそうになっていて、2人が助けてくれたというわけだ。


「飯田くんの場所が分からなかったし、そもそも僕の想像だったから、プロヒーローの応援なんか呼んでなくて……A組のみんなになんとかアドレスだけ送ったんだけど……」
「アドレスだけじゃ、来ないよね……全部で4人も居たのがむしろ奇跡かも」



保須に来ていたのは飯田くんだけだった。轟くんも私も、ヒーロー殺しの一件で来ていただけ。緑谷くんは保須を過ぎているはずだったのが、脳無のせい……いや、"おかげ"で保須に留まった。

A組の中には九州にまで行っている人も居る。今回は、なるべくしてこうなった、という感じだ。



「俺は幸せ者だ。素晴らしいクラスメイトに助けてもらえて、こんな良いことはない!ありがとう、みんな」
「大げさだなぁ」


もし私が普通科の生徒で、クラスメイトの兄弟がヒーロー殺しに襲われて、クラスメイトのピンチを目の当たりにしても、助けに行くか分からない。普通科に進んだ私は、ヒーローに憧れていても、ヒーローになる覚悟みたいなものは出来ていないと思う。漠然としたヒーロー像に恋をしているだけだ。


このヒーロー科に進んだだけでも何かが違うような気がする。職場体験で聞いた「仲間である自分たちが道を正してやらなければいけない」という言葉も響いた。



「仲間だからな、当然だ」
「そうだよ、僕らが飯田くんに助けられることだってある。持ちつ持たれつだよ」



飯田くんが叫んだ「殺してやる」という声は、忘れられそうになかった。まるでついさっき聞いたかのように思い出すことができてしまう。

昨日叫んでいたのも飯田くんだし、彼の中に確かに芽生えているはずの"インゲニウム"だって飯田くんだ。それ以上でも以下でもない。もし昨日のように1人で突っ走ることがあれば、それは飯田くんじゃなく、ただの理性がない獣だろう。


その一面はたぶん、消え去らずに残っていて、いつかまた現れるかもしれない。そのときにはまた、仲間として、手を差し伸べなければいけないんだ。



「次はちゃんと、話して。1人で抱えてちゃダメ、絶対!」
「……そうだな。本当にすまなかった」
「感謝したり謝ったり忙しいな、飯田」






2日後、退院した私は職場体験に戻った。シーソウルは脳無のせいで右腕を不自由にしてしまったそうだ。彼の個性柄、激しく体を動かすことはないが、腕が使えないのは不便だろう。それでもヒーローをやめたりはしないという。まだ体が動くうちは。



「職場体験、お疲れ様。また会うことがあれば、そのときはよろしくね」
「はい!1週間ありがとうございました!」



電車に乗って、久しぶりに家に帰る。ヒーロー殺しとのことは何も伝えていなかった。母は心配性だから、私が帰るまで眠れないかもしれないと思って。

だけどこれから帰るのもまた憂鬱だ。怪我をしたのは3日か4日ほど前だから、帰った後に"怪我しました"なんて言えば、「なんでもっと早く言わなかったの!」と雷が落ちることは容易に想像出来る。根掘り葉掘り聞かれ、もしかしたらヒーロー殺しと戦ったことまで言わなきゃいけないかもしれない。それはちょっと、言いたくない、かも。



「はぁ〜……」









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