地獄への道は善意で舗装されている。

□女の子はしつこい生き物。
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学校に着くまで一言も喋らなかった。少なくとも私から話しかけることは出来ず、そのまま教室について、それぞれの席に座った。今まで通り過ごせばいい。朝の会話はなかったことにしよう!


「水無月、ヒーロー殺しと戦ったんだって?怪我とか、大丈夫?」


三奈ちゃんが眉をさげながら聞いてきた。なんで知ってるんだろう、面構署長のおかげで、ニュースとかには出てないと思うんだけど……。


「もう全然大丈夫!ちょーっと痺れるくらい!」
「ほんとに?痕とか残らない?」
「それは残るけど、そんな気にする事じゃ……」
だめ━━━━━━っ!女の子なんだよ!?自分を大切にしなきゃ!」
「うるさっ!声がでかい」


みんな同じこと言うなぁ、とうんざりした。仕方ないのかもしれないけど。


「お嫁にいけなくなってもいいの!?」
「オヨメッ!」


お嫁って何年後の話だ。きっと、気が遠くなるほど先のことだろう。ヒーローになっていれば余計に。三奈ちゃんは恋愛系の話が大好きだもんなぁ。こじつけでもそういう方に会話をもっていく。お年頃の女の子だから。



「男の人は結構酷いやつ多いんだよ!?」
「飯田くんは酷くない!」


思わず立ち上がり、机を思い切り叩くと、誰も飯田のことなんて言ってないよ?と言う三奈ちゃん。確かに!


「……み、緑谷くんだって酷くない!轟くんも!峰田くんは最低だけど!」
「峰田はサイアクだね!」


なんとか誤魔化せたようだ。大声を出してしまったから飯田くんにも聞こえていただろうし、むしろクラス全体に響いたはずだが、気にしないようにしよう。


「オイラは最低じゃないぞ!男のサガだからな!」
「うっわ、きもちわるい」
「なにをぉ!?男ってのはなぁ!」


こうやって絡まれると長い。いかにエロに徹しているか、とか熱く語られる。性欲の権化はお前だけだよ。ここまで来ると流石です、としか言えない。


「分かるぜ峰田……」
「上鳴……!」
「A組変態ツートップだ!」
「語呂がイイ」



もちろん圧倒的1位は峰田くん。でも峰田くんと一緒になることが多い上鳴くんも変態扱いしても問題ないだろう。


「そういえばよ、水無月、ヒーロー殺しと戦ったんだよな?飯田とか轟とか緑谷も!」
「いや、もうその話はいいでしょ!」







久しぶりのヒーロー基礎学を終え、更衣室にて着替えていた時のこと。男女それぞれの更衣室は隣同士だから会話は割と聞こえてくるのだが、今日は一段とうるさかった。

飯田くんの「峰田くんやめたまえ!ノゾキは立派なハンザイ行為だ!」という声が聞こえ、さすがだと思った。


「……これのことか」


耳郎ちゃんがノゾキ穴を発見した。みんな見られないように避けて服を脱ぐ。やや間を置いて、峰田くんの「目から爆音がぁっ!」という声を聞き安心した。


「ありがと、響香ちゃん」
「ほんっとに峰田くん最低だね、塞いでおこう」


私の個性で壁を修復し、穴は綺麗さっぱり塞がれた。峰田くんの目も塞ぎたいところだ。法律が許すならとっくにやっている。


「ねぇ、気になってたんだけど、水無月って飯田のことどう思ってるの?」
「えっ!なに急に」


三奈ちゃんはヒーロースーツをたたみながら聞いてきた。朝の会話でムキになったことを忘れていなかったようだ。透ちゃんやお茶子ちゃんまで「どういうこと!?」と身を乗り出してくる。やめてくれ。


「別に、大切な友達だよ」
「別にってなに!」
「いつも一緒に居るわよね。まるで恋人みたいよ」


思わず梅雨ちゃんを睨むと、梅雨ちゃんは「思ったことは何でも言ってしまうの」と言い訳をする。それさえ言えばいいと思ってるでしょ!ねぇ!


「飯田くんとはたまたま入学前からの知り合いだったから、その流れで一緒にいるだけ!もう、先いくから!」


逃げるように更衣室を出た。好きだって朝は言っちゃったけど、その好きだって友達としてかもしれない、私が勝手に恋愛の方だと思い込んでるだけで!だって特別な友達とか、居るよね!?親友とか!たぶんそうだよ!そういう感じの好きだよ!


お茶子ちゃだって入学してすぐ、緑谷くんの名前が好きだとか言ってたことあったよね!それくらいの感覚だよ、たぶん!





帰りのショートホームルームで、夏休み中の林間合宿についての話がされた。1週間くらいやるのだろうか?寝食を共にするのは楽しみだ。肝試しに花火、ひろーいお風呂に入ったりみんなで夜中までこっそりお話したり、いつも以上のハードな訓練に悲鳴をあげたり……。


「ただし、その前の期末テストで赤点とったやつは……学校で補習地獄だ」
みんな頑張ろーぜッ!


上鳴くんと切島くん、不安要素の多い2人が声を張り上げた。ヒーロー科は実技演習もあるし、そもそも勉強だって得意ではないし、私もかなり不安だ……。

だけど林間合宿を休むなんて絶対に嫌だ!


「めちゃめちゃ頑張らなきゃ……」









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