地獄への道は善意で舗装されている。

□楽しい楽しい遊園地!
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時は過ぎ、遊園地デート当日。私が持つ精一杯の可愛い服を用意したつもりだが、おかしくはないだろうか。スカートをはきたいと思ったものの、生憎そんなキュートなものはなかった。だからオーバーオールにした。ちょっと足も出したり、

1枚でもいいからスカート……買うべきだろうか。



鏡の前で唸っていたら、ピンポーン、と軽やかなインターホンの音がした。8時半ぴったり。飯田くんだ。


「飯田くん!おはよう!」
「あぁ、おはよう。……すまない、この時間は早すぎただろうか」



遊園地は9時からやっている。ここからは少し遠いし、日曜日だから混むだろうし、ということで早めに行くことにしたのだ。それを提案したのは私だし、飯田くんが謝ることなんてないのに。


「大丈夫だよ!ね、早く行こう!」
「そんなに焦らなくても遊園地は逃げないぞ!」


最後に遊園地に行ったのはいつだろう。小学生くらいだろうか。ジェットコースターには乗ったことがない。乗ってみたい!メリーゴーランドは馬でしょ。コーヒーカップでぐるぐるまわって……お化け屋敷は、どうだろう、怖い。

電車に乗って4駅。駅から徒歩10分。着いたのはズードリームランド。動物や森林をテーマとした、子供から大人まで、みんなに人気の遊園地だ。


「さて、水無月君。カチューシャは何をつける?」
「……カチューシャ?」
「あぁ、ズードリームランドに入った時点で我々はズードリームランドの住人なのだ!」


確かに周りの人達は動物の耳のカチューシャをつけていた。ここがそういう遊園地だからなんだろう。ディズニーランドでミッキーの耳をつけるみたいに。ハロウィン時期のUSJはコスプレした人がいっぱい居るみたいに。

……飯田くんも、カチューシャをつけるのか。


「じゃあ飯田くんは……ウサギね!」
「ウサギ……はっ!まさか草食動物のように周りをよく観察し、その長い耳で音を感知し、早急に行動へ移す。また、高くジャンプするように成長を遂げろという暗示!?さすが水無月君!雄英生のしての意識が違うな!」
「うん……ちがうな」


全然そんな意図はない。


「では俺が水無月君のカチューシャを選ぼう」
「動物の耳じゃないけど、羽ついたやつあるよ、可愛い」


カチューシャの両端にたくさんの羽がついたもの。耳はない鳥を模したんだろう。白い羽と黒い羽がある。


「常闇くんっぽいかも」


これにしようかなぁ、と呟くと、飯田くんは驚いた様子で「ダメだ!」と言った。そしてウサギの耳をとり、私の頭につける。


「おそろい?」
「あぁ、共に成長しよう!」


それは飯田くんが勝手に解釈したことで……まぁいい。恋人らしいこと、してもいいよね。


「よし、今日は全てのアトラクションを制覇しよう!まずは近い場所から……」
「コーヒーカップ!」
「"オアシスのティータイム"だ!」


地図を見てコーヒーカップのアトラクションへ向かう。ここはコーヒーではなくティーカップみたいだが、まぁやり方は同じなので構わない。あまり人も並んでいなかったので、すぐに乗ることができた。周りは子供が多い。平和な乗り物だから当然だろう。


「始まるみたいだぞ!」
「よぉし」



楽しげな明るい音楽がかかり、カップがくるくると回り始めた。子供たちのはしゃぐ声が聞こえる。ハンドルを車のように回している子もいて、ぶーん!なんて言っていた。可愛い。


「回していい?」
「あぁ、もちろんだ」


ぎゅっとハンドルを握り、思い切り回した。取れるんじゃないかと言うくらい回した。


「水無月君……回しすぎ、だ……っ……!」


とんでもない遠心力が私たちを襲った。飯田くんはカップのふちに掴まって、私はハンドルを握ったまま固まる。1度でいいから馬鹿みたいに回してみたかったのだ。だけど想像以上に……!


「とまった……」
「ぅ……ごめっ……飯田、くん」
「水無月君!?た、大変だ……!」


ティーカップをおりて近くのベンチに座る。飯田くんでさえぐったりと背もたれに身体を預けていた。


「ほんとに、ごめんね……」
「……水無月君もあんなイタズラっ子のようなことをするんだな」
「楽しくて、つい……!」


休みながら次のアトラクションの相談をした。私が盛大に回したせいで早々に疲れたので、今度は穏やかなものにしようと、メリーゴーランドを選んだ。


メリーゴーランドで馬に乗ろうとしたが、想像より馬が高くて自力であがれない。なんで踏み台がないんだ?よほどの子供なら大人に乗せてもらえるだろうが、高校生にもなってそんなことしてもらえるわけない。私ならできるはずだ!Plus ultra!




「わっ!?」
「これで乗れるかい?」
「い、飯田くん!」


急に身体が浮き、馬に乗れるほど視線が高くなった。振り返ると私を持ち上げていたのは飯田くんだった。こんな姿を他の方々に見られるのも恥ずかしいので、すぐに馬にまたがる。すると飯田くんは隣の馬に乗った。その動作が、騎士か王子様のように手馴れた様子で。飯田くんって何者なんだ?


やがてゆるゆると動き出したメリーゴーランド。しばらく前をみて景色を楽しんだが、ふと横を見ると飯田くんと目が合った。飯田くんは何も言わずにこっちを見ていて、なんだか気まずくなってしまう。

飯田くんは馬が似合っていた。騎士のような格好をすれば本当に様になりそうだ。想像してみたら、かなりかっこよくて……顔が緩んでしまったので、笑顔で誤魔化しておいた。









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