地獄への道は善意で舗装されている。
□面倒な2人。
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「水無月君、大丈夫か」
「あ、ありがとう」
メリーゴーランドが終わったら、降りる際に飯田くんが手を差し出してきた。その紳士さにとても戸惑う。けれど自力で乗れないようなものからどんと降りるのも少し怖くて、その手を取った。
「次はどこへいく?」
「えぇと……ジェットコースター!」
「よし。では行こう!」
繋がれた手はそのままに、ジェットコースターへ向かう。周りにはカップルが多く、腕を絡めたりしながら歩いている人もいて、なんて大胆なんだ!と驚いた。
「……飯田くん、私たちも、あんな風にしてみる?」
「なっ……は、破廉恥だぞ!」
「やだ!冗談ですよ!」
確かにベタベタくっつくのは恥ずかしいけど、ハレンチまで言わなくたって。私だって決して本心ではない。飯田くんの真面目さが発揮されるのは火を見るより明らかだ。
「ジェットコースターに着いたが……」
「うわ、すごい並んでる」
「とても人気だからな、仕方ないだろう」
飯田くん曰く、このジェットコースターは、ズードリームランドの平和でメルヘンチックな雰囲気とは裏腹に、回転が多かったり宙ぶらりんになったり、なかなか勢いのいい造りらしい。他にも絶叫系アトラクションがないわけではないのだが、ずば抜けて恐いジェットコースターはズードリームランドの1番人気なんだとか。
「そんなに、恐いの?」
「あぁ、期待を裏切らない恐さと言われている」
やめよう、と瞬発的に言ってしまった。そんなすごいものなら先に言ってくれたら良かったのに。もしくは言わないでくれたら乗れた。……怖気づいてしまったじゃないか。いや、飯田くんのせいじゃないんだけど……。
「勇気が出ない……」
「……では、期間限定のアップルパイを食べに行こう!」
飯田くんに連れられて着いたのは、リンゴを模したような可愛らしいお店だった。そこでアップルパイと飲み物を買った。
飯田くんは全てお代を出してくれると言ったが、そんなことできない。私たちはあくまで対等だから。けれど飯田くんも変なところで強情なので、アップルパイは飯田くんに買ってもらい、私が飲み物を買う、ということで決まった。いや、決めた。
「ん、美味しい!」
「確かにうまいな」
アップルパイはあまり食べたことがなかったが、案外いける。サクサクの生地とリンゴの甘酸っぱさがマッチしていて、ほっぺがとろけ落ちそうだ。
「飯田くんはやっぱりオレンジジュースなんだね」
「あぁ。さほど必要がなくても、どうしても飲んでしまうんだ」
初めて会ったとき、オレンジジュースがエンジンの燃料になると言っていた。どうしてオレンジジュースなんだろうと疑問に思ったが、それは本人にも分からないだろう。
次のアトラクションはどうしようか、お土産やさんも行きたいね、などと話をしながら食を進めた。
食べ終わってジュースを飲んでいたとき、遠くのベンチに知人の姿を発見する。
「……あれ、上鳴くんと峰田くんじゃ……」
「本当だ。2人もちょうど来ていたんだな」
挙動不審にキョロキョロと周りを見ている2人。時折何かを指さしては話をしていて、ろくなことはしていないな、と悟った。なんかもう分かってしまう。だってあの2人が絡んでいたら大したことじゃない。
「あの2人はあの2人で楽しむよね、放っておこ!」
「……しかし、彼らも俺達に気付いたようだ」
今までにないほどの速さで走ってくる。嫌な予感しかない。飯田くんと私はあの2人から逃げるようにその場を立ち去った。しかし彼らの執念はすごい。どれだけ逃げても追いかけてくる。引き離すどころかどんどん近付いてきて、クラスメイトに対して失礼だが気持ちが悪い。
私も飯田くんのように早く走れるならいいのだが……。
「ど、どうしよう、飯田くん……!」
「困ったな、いつまでも遊園地の中で走り回るわけにはいかない。他人様の迷惑となる……」
仕方あるまい、と立ち止まった飯田くん。2人と話をすることにしたようだ。私をそっと背中のほうに隠すようにして、後ろを振り向いた。
「2人とも!付きまとうのはやめてくれないか!」
「オイ飯田ァ!お前なんで水無月と2人きりなんだよォ!」
「オイラたちは男2人で虚しくやってんだぞォ!」
ぎゃんぎゃん騒ぐ上鳴くんと峰田くん。「ナンパが成功しねぇんだよ」とか「いい女いると思ったら彼氏いるしよぉ」などと……やっぱりろくでもない。
「飯田は誰と来てんのかと思えば……お前ら、カップルじゃあるまいし!」
「……いいや、俺達は正式にお付き合いをしている」
「「……えっ……?」」
隠すつもりはないが、この2人には知られたくない気持ちがあった。だってとやかく言われそうなんだもの。でも、予想と反して2人は何も喋らなかった。
驚いた様子だったが、私たちが付き合っていることより、自分たちが上手くいってないのに他人の幸福を見てしまったのが衝撃……という感じだろうか。飯田くんが恋をすることにも驚いているかもしれない。
「俺達はいわゆるデートをしている。すまないが、2人にさせてくれるかい」
「そうっすね……俺らどっか行きます……」
「クソ……リア充なんて……」
私たちは、2人の悲しげな背中を見送った。大丈夫だろうか、立ち直れるかな……。
「……あの2人のことだ。明日には、クラス中に広められているかもしれないな」