地獄への道は善意で舗装されている。

□メイクするにはまだ早い?
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次の日。学校につくと、教室の前でA組女子総出で待ち構えていた。


「い、飯田くん先に教室行ってていいよ」
「何故だ?」
「いいから!」


三奈ちゃんがこちらを指さす。そしてすごい形相で走ってきた。私は飯田くんを置いて女子たちから逃げ出してしまう。ごめん飯田くん!だってあの子たちに捕まったら大変なんだもん!あわよくば飯田くんが犠牲になってくれませんか……!

願いは虚しく、「廊下を走るな!」と怒る飯田くんを通り過ぎた彼女たち。


「水無月ーっ!止まれぇー!」
「どういうことなの、咲涼ちゃん!」
「詳しくーっ!」


怖い!たぶん昨日のジェットコースターより怖い!絶対峰田くんたちが言ったんだ、それでお茶子ちゃんたちは……!

今逃げ切ってもどうせ教室で会う。だから結局いつか根掘り葉掘り聞かれるんだろうけど……。


「来ないでーっ!」



朝からこんなに走って……今日もヒーロー基礎学とかあるのに。実践訓練の前に疲れちゃダメだろう……。






「水無月、ちゃんと話してもらうからね」
「はい……」



今は放課後。周りを女の子たちが囲い、まるでいじめの現場だ。彼女たちは帰りのショートホームルームを終えてすぐにやってきた。飯田くんが「何をしているんだ君たち?」と聞いたものの、用があるのは飯田くんではなく私みたいで、「委員長はあっち行って!」と邪険にされていた。

申し訳ないから先に帰っていいよ、と言っておいたが、飯田くんは優しいから待ってくれるかもしれない。でも本当に長くなるだろうし……。



「いつから付き合い始めたの?」
「先週の金曜日です」
「それで昨日デート!?ずいぶん早い展開だねぇ」


三奈ちゃんは前の席の椅子を私の方へ向けて座り、次々質問していく。告白はどっちから?どんな告白だったの?手は繋いだ?委員長の恋愛ってどんな感じ?委員長のどこがいいの?などなど……なんだこれ、取り調べか。



「ちゅーとかした?」
「し、してない!」


横から身を乗り出した透ちゃん。私の返答に、みんな「えーっ!」と声を出す。せっかくの初デートだよ!?しかも遊園地だよ!?なんでキスしないの!?ととても責められた。本当はしたんだけど、口が裂けても言えない。


「だって相手は飯田くんだよ?キスなんてできないよ」
「確かに、飯田さんはお堅いところがありますものね」
「観覧車の頂上でキスはベタベタのベタなシチュエーションだよ!?真面目な飯田くんだからこそやりそうだと思ったんだけどなぁ!」


お茶子ちゃん!よ、よく分かってらっしゃる!



「また今度ねって……」
「そっかぁ」


残念ねと呟いた梅雨ちゃん。他のみんなも頷く。すると、今まで黙っていた耳郎ちゃんが口を開いた。


「じゃあ、キスしたくなるような唇にすれば?」
「いいねぇ!」
「え、ちょっと……」


私を差し置いてわいわい盛り上がる6人。私の意見は……。


「ウチ、ちょっとならメイク道具持ってるし」
「よーし、じゃあ今からやっちゃおー!」


咲涼ちゃんは座っててね、と後ろから押さえつけられる。半ば羽交い締めのようになっていたが、さすがにそこまでしなくたって逃げないよ。

耳郎ちゃんはメイク道具一式を取り出す。どうせやるなら唇だけじゃなくてもっとしようよ!と誰かが言い始めたせいで少しだがチークなどもやられることに。


「できたよ」
「可愛いー!」
「えっ、なにこれ、すごい!」


鏡を渡された。濃い化粧ではなかったが、確かに自分じゃないみたいな雰囲気で、驚いた。


「でも学校でメイクなんてそもそも……」
「飯田もそういうだろうなって思ってナチュラルに仕上げた」
「私もメイクしたーい!」


気付けば話はすり変わって、メイク談義になっていた。女の子とは面倒なものだ。引っ付いてきたかと思えば急に離れたり……猫か?

もちろん彼女たちのことは大好きだ。それに今離れてくれたことは嬉しい。


そーっと教室を抜け出し玄関へ向かう。靴箱のところに飯田くんが立っていて、私に気付くと少し微笑んだ。


「ごめん、待っててくれたんだね」
「当然だ。……ん?」


歩き出した飯田くんは何かに気づいたようにすぐ立ち止まる。しばらく私の顔を眺めたかと思えば少し首をかしげた。


「水無月君、何か変わったな」
「そう、かなっ?」


そんなことないよ、と言いながら靴を履き変える。飯田くんは周囲をよく見ている。たまに見落とすこともあるけれど。

駅へ向かうときも、電車の中でも、電車を降りてからもずーっと見てくる。見すぎですよ。もうなんか不審者ですよ。


「唇が綺麗だな」
「耳郎ちゃんに塗ってもらったりしたからだね」
「塗ってもらった?」
「あ、えと、そのぉ、メイクをちょっと……」


飯田くんの顔を盗み見ると、眉間にシワを寄せていた。「なぜそんなことしたんだ?」と言いたげだ。ごめんなさい委員長!


「も、もうしません」
「そうだな、学校という場では相応しくない!だが……可憐だと、思うぞ」


口元を押さえて言う飯田くんを見て、不覚にもきゅんとした。



「しかし、俺はありのままの君が好きだ。それに、背伸びする必要はないだろう?」
「背伸びしたい年頃なんですぅー」


だけどお化粧は、大人になってからにしようと思った。お肌のケアはしよう!









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