地獄への道は善意で舗装されている。

□期末テストまで2週間。
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ある日、ランチラッシュの昼食を食べていたときのこと。期末テストまであと2週間くらいかぁ、と不意に思った。


「広いところで個性の練習したーい」
「急にどうしたん、咲涼ちゃん」


サラダを食べていたお茶子ちゃんが首をかしげながら聞いてきた。私はうどんを食べながら返す。


「実技テストどんなのか分かんないでしょ、少しでも個性の精度あげておきたいの」


筆記の勉強はしているんだけど、いかんせん実技テストへ向けての対策が全く出来ていない。

私としては、ヒーロー殺しと戦った際に出した竜巻みたいなものを、ちゃんと形にしたいのだ。反動で動けなくなったりすることがないよう、工夫や慣れだって必要になる。けれどあんなに大きいものは室内で出来るわけない。外でやろうにも、原則的に個性は使用禁止なわけで。

そもそも体力がないので別の努力が要るのだが。



「小さい竜巻は作れるんだよ、ほら」
「わっ可愛い」


テーブルの一部を変形し、手のひらサイズの渦を作る。お茶子ちゃんは小さく拍手をした。


「超秘って欲しいよねぇ」
「飯田くんのレシプロバーストみたいなのは、ヒーローとして必要だよね。必ずしも技にする必要はないにしろ、一撃必殺!みたいのはカッコイイし。その人といえばこれ、みたいなイメージを作れるのはいいことだね。ヒーローは人気業みたいなところもあるから、技があると覚えてもらえるし」
「……さすが緑谷くん」


1を言うと10が返ってくる。爆豪くんがあんなに怒るのも納得できるかも。だからといってあんなに暴言吐いたりするのは怖すぎるけれど。



「先生に頼んだら、どこか貸していただけないだろうか?」
「頼んでみたらいいんじゃねぇか。こんだけ広いんだ、ねぇこともねぇだろ」


飯田くんと轟くんの言葉にみんなで頷いた。いつの間にか轟くんも一緒にご飯を食べるようになっていたけど、結構楽しいから気にしない。


「今日の放課後にでも先生に言ってみようよ!」
「いいね!それでみんなで特訓しよう!」
「確かに、1人で模索するよりも、お互いを鼓舞し高め合うのがより成長に繋がるだろう!」




そう話し合った私たちは、放課後、相澤先生の元へ向かう。委員長である飯田くん、そして真面目な緑谷くんとで頼みに行ってくれた。この話を知った梅雨ちゃん、八百万さんが仲間に加わった。


「水無月さん……ずっと言いたかったことがありますの」
「なんでしょうか!」


職員室に行った2人を待つ間、八百万さんが話しかけてきた。手を擦り合わせたり落ち着きのない様子だ。改まって言われたものだから少しドキリとしたけれど、どうしたんだろう。


「水無月さんは、他の女性は、みなさんお名前で呼んでおりますわ。なので……私のことも、こう……」
「……ヤオモモちゃん!」
「まぁ!」


頬に手を当て声を上げた。ぱぁっ!と花が咲いたような笑顔。彼女の周りにハートやお花が見えるのは気のせいじゃない気がする。私のことも咲涼って呼んでくれていいんだよ、といえば照れた様子で咲涼さんと言ってくれて。なんて可愛いんだ!

やがて緑谷くんと飯田くんが戻ってきた。飯田くんの頭には、なんと校長先生が乗っている。可愛い。



「こ、校長先生!」
「やぁ!体育館、貸してあげるよ!付き添いは僕さ!」



相澤先生は、とても渋っていたそうだ。先生たちは何かと忙しく、付き添いの教師をつけることもできない。生徒たちだけでやらせるわけにもいかないし、私たちは申請書というのも書いていなかったし。その時、校長先生が現れ、いいじゃないか!と言ってくれたそうだ。校長先生だって忙しいんじゃないのかな……。


「校長先生!本当に僕の頭の上でいいのでしょうか!」
「うん、意外と安定性があっていいよ!」
「有り難きお言葉!」


体育館に行くと、何やら物音が聞こえてきた。そこには先客がおり、扉を開けた私たちを「なんだあいつら」という目で見てきた。


「あれあれぇ!?A組じゃなぁい!?なに!?僕らの真似してここに来たわけ!?さすがA組!こんなずっるいことできるんだもんなぁ!プライドがないんだなぁ!」
「わぁ本物の物間くんだぁ」
「偽物の僕なんていないけどぉ!?」



先客はB組の面々。B組委員長の拳藤さん、腕相撲の鉄哲くん、上鳴くんを完封した塩崎さん、そして物間寧人くんなどなど……。騎馬戦のときはちょっと近くまで行ったけれど、結局戦うことはなかった物間くんは、改めて見たらかなりやばい奴だった。

A組をライバル視しすぎだし、絡み方がうざいし……なんというか、この人は大丈夫なんだろうか。とても心配になる。


「あんたうるさいよ」
「へぁっ」
「拳藤君!」
「……情けねぇ声だな」


轟くんの声が冷たすぎて、それは物間くんが可哀想だと同情した。拳藤さんの手刀がスゴすぎるだけかもしれないでしょ!







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