地獄への道は善意で舗装されている。

□なんだそれ、チートかよ。
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泡瀬くんたちに聞いたところ、物間くんは触った相手の個性を5分間使い放題なのだとか。しかし同時に使うことはできない。


物間くんは、始まる前に同チームの飯田くん、轟くん、お茶子ちゃんの個性はコピーしているはず。攻撃を避ける際にエンジンを使っても、氷や炎で攻撃する際は反則的な速さがなくなる。お茶子ちゃんの個性で自分の体を浮かしても、その姿勢でも攻撃はできない。


もし仮に"その人の個性の何もかも"をコピーするのだとすれば、轟くんが炎を上手く調節できないように、物間くんもまたできないのではないだろうか。お茶子ちゃんの超必も酔いが激しく、難しいはずだ。


だがそれを抜きにしてもコピーはコピーにすぎない。



「他人の個性が貴方の個性になったわけじゃないから」



今まで培ってきた感覚までコピーされちゃあ、わけないわ。飯田くんのエンジンの吹かし方、お茶子ちゃんの解除のタイミング、轟くんの氷の使い方……それらは必ずその人自身のクセがあって、それでこそ成り立つことだってある。


「言うねぇ!」


右手が動いた。足元から大きな壁を作ると、そこにへばりつくように氷が放出された。頭上を覆うほど多くはない。しかし視界が塞がれてはだめだ、いつどこから現れるか……。

気をつけながら壁と氷を元に戻していく。彼は頭がおかしい人ではあるが、悪いわけではないはず。この場合エンジンで後ろに回って……。



「ちゃんと見なよ!」
「上っ……!」


氷伝いにやってきたらしく、物間くんは私の上に飛び上がると、またも右手を振りかざした。思わず直しかけの氷と壁で物間くんを遠くの方へ突き落としてしまった。ちょうど触れていたから反射的に……。

物間くんはその場でうずくまり動かない。やりすぎてしまったかもしれない。これは自主練習にすぎないのに、大怪我をさせてしまったらどうしよう。


「も、物間くん……大丈夫?怪我しちゃった?」
「ぅう……」


呻きながら起き上がる。とりあえず大丈夫そうかな……?と思ったのも束の間、パシッ、という軽い音と共に腕に小さな痛みを感じた。


「はは、タッチ。油断したねぇ?」
「なっ……!」


触られてしまった。近づけないからって、そういう手段を使うのはどうかと思うけど……!?


「君の個性、よく知らないけど便利そうだなぁ!彼らの個性は切れちゃいそうだから使わせてもらうよ!」


悪役のような笑みを浮かべ、彼は止まった。笑みはだんだんと引きつっていく。どうしたのか分からないけど、彼はまた氷を使い始める。


「どうしたの!使うんじゃあなかったの!?」
「……よく考えたら無駄そうだと思ってね!」


幸か不幸か、私たちの戦いに混ざって来る人はいなかった。仲間が混じってくれれば楽になるだろうが、ひとまず間合いに入られないようにしていればいい。


「もしかして、私の個性出せないんじゃないの?」
「そんなわけないだろぉ!?」
「どうだか!」


物間くんは変形をしたいんだと思う。正直何も無い空間で物を直すだけなんてそれこそ無駄でしかない。だからこそ私は変形も編み出したんだけど、これは私にだって上手くできないものだ。

物間くんは私の個性をよく知らないといった。本来の使い方である再生をすることはできるはず。しかし変形の仕組みを分かっていない以上、それだってできないのではないだろうか。

応用的なことは、持ち主でない彼には実現できない。それが私の考えだが……当たった、かも。



「言ったでしょ、物間くんの個性になったわけじゃないんだよ」



両手をついて竜巻のイメージを繰り返す。小さな竜巻は次第に大きくなり、やがて、ステインと戦ったときほどではないにしろ、人の背丈をゆうに超えるものができあがった。比較的時間がかかってしまったので、どういうわけか物間くんが手を出してこなかったおかげで出来たことだった。

それは私のコントロール下から離れ、制御されないまま大暴れを始める。他の場所で戦う人達へも向かっていき、さながら災害のようだ。物間くんは笑って、「当たらなきゃ意味ないじゃん!」と言った。確かにね。しかしご安心あれ!ただの災害ではありません。


「3人とも!気をつけて!」



竜巻はすぐに散っていった。あのように激しく動いていては、変形の効力を失い、発散してしまう。それは大きさ関係なく起こることだった。


どろりと溶けたようなコンクリートを浴びたみんなの体。しかしチームメイトは塩崎さんの茨で屋根を作ったことで浴びずに済んだようだ。


手をひろげてくるりと回ると、コンクリートが固まってみんなの動きを止めてしまう。全身がくまなく、という人はいなかったが、それでも戦いを続けられるほどではない様子。

免れる一部の人は3人がどうにかやってくれて、結果、私たちの勝利となった。やったね!



私のせいでみんながコンクリートまみれになってしまったが、私にはそのコンクリートを完璧に取り除くことはできないので、セメントス先生を呼んで綺麗にとってもらった。お手数をおかけします。それでも、どこか軋むような気がした。特に女性陣、申し訳ない。



「A組のくせにやるね!今回は負けてやったんだよ!?覚えておけ!」
「はーい」


物間くんはよく吠える。それが彼のアイデンティティかもしれない。爆豪くんと似てるなぁ。静かな爆豪くんはこわい。


またこんな風に戦えたらいいね、と笑いあって、私たちは家路についた。そういえば、私たちの戦いは、校長先生にはどう見えたんだろう?ハイスペックな校長先生だから、手厳しい評価だろう。ちょっと聞いてみたい気もする。










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