地獄への道は善意で舗装されている。
□頭をフル回転させて。
1ページ/1ページ
やがて時は過ぎ、筆記試験を終え、演習試験当日となった。筆記試験はいまのところ問題はなさそう。心配だった三奈ちゃんや上鳴くんたちは、ヤオモモちゃんのおかげで赤点回避はできたと豪語していたし、私も飯田くんに教えてもらったりして何とかなったと思う。
問題はこの演習試験だ。上鳴くん曰く、入試のようなロボ相手に戦うらしい。それなら入試よりも簡単にこなせそう。
「残念!今年から変わったのさ!」
「校長先生!?」
一瞬にして空気が冷えた。主に『どうせロボだろ!?やってやるぜ!』とでも言いそうなほどテンション高めだった人達が。
「これからは対人戦闘・活動を見据えた、より実戦に近い教えを重視するのさ!」
それにあたり、今回は先生との戦いになる。私たちより何枚も上手の彼らを相手にどうするのかがキーとなるそうで。
私は上鳴くん、三奈ちゃんと共に校長先生と戦うことになった。バスで連れてこられたのは工業地帯のような場所。ここが演習試験の会場となる。たくさんの建物が密集し、変形のしがいがありそうだ、と思った。
「制限時間は30分間!クリア条件は、このハンドカフスを私にかけるか誰か1人がステージから脱出すること!」
わざわざ戦わなくてもいい。圧倒的実力差の前に、勝利を狙っても無謀なだけ。どちらかというと私たちは逃げの一手かもしれない。だって校長先生はハイスペックだから。……一体どんなことになるのやら。逃げることすら許されないかもしれない。
「校長先生が単身で来るとは思えないよね」
「確かに」
あの小柄な先生だ。殴り込んでくれば上鳴くんの放電でどうにでもできてしまう。だからといってどう出るか予想はできない。
「レディィイイー……ゴォ!」
「うわ!?」
「なんだっ!?」
リカバリガールの合図と共に、辺りに響いた轟音。同時にガラガラと近くの建物が崩れていく。
「なんなのぉ!?」
「あれ鉄球かよ!?」
逃げながら上鳴くんの指差す方向を見ると、やけに大きな鉄球がゆっくり持ち上げられていった。まさか校長先生があれを?なんて怖いことするんだ。
「あんなのにどうやって戦えばいいんだよ!」
わめきながら走る私たち。鉄球は的確に狙いを定めて建物を壊していく。まるで私たちの居場所が分かってるみたいな。まさか!それはハイスペックすぎる……でしょ。
「どうしよぉ〜!」
「分かれた方がいいかも!……ちょっと作戦があるんだけど!」
しばらく話したあと、2人は打つ手もないからそれでいこう、と離れていった。三奈ちゃんは建物を溶かしながら、上鳴くんは先程までと同じように走って、私は変形と再生を駆使して異動する。誰か1人が外に出ればいいんだ。ここで固まってくすぶっていたって仕方ない。30分しかないんだから。
やがて遠くから光が見えた。大きくはないが、校長先生の気を引くには十分だったようで、鉄球はそちらへ攻撃を仕掛ける。
私たちから校長先生の居場所が見えない以上、きっとあっちだってこちらが見えていないはず。防犯カメラなんて不公平なものがあれば別だけど。どちらにせよそれぞれが分かれて行動しているうちは、1人ずつ狙わないと潰していけない。
そこで、とりあえず上鳴くんに囮になってもらうことにした。一気に使うとアホになってしまうから、ときどき小さく放電する程度におさめ、気を引きつけてもらう。
その間に私たちはゲートに向かう。逃げ回っているうちに方向感覚も薄れてしまい、正直ゲートの場所が分からないけど、しらみつぶしに探すしかない。
あんな鉄球を動かすくらいだから、先生はなにか重機に乗っているはずだし、そしたら手錠をかけるなんて絶対無理だ。
「上鳴くん頑張って……!」
しばらく走った。ひとまずステージの端にはたどり着いたが、ゲートらしきものは近くにない。壁伝いにいこうとまた走っていたら、近くで耳をつんざくような音が聞こえた。
「うそ……」
進行方向3つ先のビルが砂煙をあげながら崩れた。上鳴くんはどうしたの?やられちゃったの?校長先生が見失ったとか?いいや、何にせよ大変だ。私の所在を知っているのだろうか、もしそうだとしたら逃げ切ることはできまい。
しかし、どうやら私の居場所を把握しているわけでもないようだった。鉄球が別のところへ向かい、私は建物に紛れながら進んだ。
先生は私たちをあぶりだそうとしているのかもしれない。それがどういう風にかは分からないけど、瓦礫に近づくのはやめた方が良さそうだ。
しばらく進んで角をまがり、更に走るとゲートらしきものが見えてきた。しかし周辺の建物は全壊。向かえばこちらの姿が丸わかりになってしまう。かといって直して進んだって何処にいるのかバレるし……。
「うぇ〜い……」
「か、上鳴くん!?」
上鳴くんは瓦礫に埋もれていた。やられちゃったわけね。三奈ちゃんは無事だといいんだけど……。
だが、上鳴くんは囮をしながら偶然にもゲート近くまで来ていた、ということか。追い詰められたのか何なのか、こうしてアホになってしまったけれど。
あぁなっては、もはや先生に何かされることもないだろうし放っておこう。今は何か作戦を考えないと。鉄球を抜けてゲートをくぐる作戦を。クリアの方法を。
「……やばい、何も出てこない」