地獄への道は善意で舗装されている。

□未来のビジョンは不鮮明。
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飯田くんと色んなお店を回って、欲しかったあれこれを買った。キャリーバッグは大きくて邪魔になってしまうから帰る前にしようと話して、休憩がてら有名アイス店のアイスを食べることにした。暑いからね。


「美味しい〜」
「アイスクリームなんて久々に食べたかもしれない」


飯田くんはクッキーアンドクリーム、私はパチパチ弾けるポッピングシャワー。ついついこれを選んでしまうのだ。


「ところでそのアイスは、本当に弾けるのか?」
「うん。おいしいよ!」


食べてみる?とアイスを差し出した。飯田くんは少しだけ口に含む。すると大きく目を見開いて何か言おうとしていたが、食べている時に口を開かないというマナーを守っていたため、「んー!んん!」という謎の声しか聞こえず、何が言いたいのか分からなかった。

けれどその目は輝いており、嫌だった訳では無いようだ。



「不思議だ……!本当に口の中で踊るようだった!」
「でしょ〜」


爽快感があって夏にピッタリなのだ。

飯田くんが「俺のも1口食べてくれ、等価交換だ!」というので、ありがたくいただく。スーパーで買うときはクッキーバニラを食べたりするが、アイス店で買う時は他店で見ないような珍しい味を選んでしまう。


しかし……さすが有名アイスチェーン店。スーパーで買うアイスとは何かが違う。濃く、深く、口の中に残るようでいてさっぱりした味わい。ポッピングシャワーのようなミント系とはまた違った爽やかさがあって、とても美味しい。


「あー、美味しい……幸せ……」
「……あ」
「どうかした?」


コーンをかじり、声を上げた飯田くんに顔を向ける。飯田くんは何故か顔が赤くなっていた。熱でもあるのだろうかと思ったが先程までそんな様子はなかったし、たぶん違う。

けれど、じゃあどうしたんだろう、何か照れてしまうようなことでも……。



「あっ」



何も気にせずにアイスを分け合ったが、もしかしなくても、これは間接キスとか、そういうやつなんじゃ……。

で、でも私たちはキスだってしたことあるし、そんなの全然大丈夫、だよね!うんうん!気にすることないよ!



「た、食べたらカバンを見に行こう」
「そう、だね」


お互いにちょっとだけ気まずくなってしまい、黙々とアイスを食べた。そろそろ行こうかというとき、警察が現れ、避難指示が出される。


どういうことか聞くと、敵の1人である死柄木という男が緑谷くんに接触したそうだ。死柄木はUSJ襲撃の中心人物で、雄英にとって忌まわしい存在ともいえる。


ショッピングモールは一時閉鎖。緑谷くんは警察で事情聴取を受け、それ以外の生徒は家路についた。



「死柄木……なんで緑谷くんに……」
「緑谷君は、めざましい活躍をしていたが故に狙われたのかもしれないな」


たしかに体育祭での目立ちようはすごかった。当然爆豪くんもすごかったのだが、緑谷くんは地味な容姿とは裏腹に感情的になりやすく大胆なところがある。そのギャップからも印象には残りやすい。



「飯田くんが、もし、敵に襲われたら、絶対助けにいくから」


また怒られて、迷惑をかけてしまうかもしれない。相澤さんのことだ。学校の方は除籍なんてことも有り得るかも。それでも助けにいく。じゃなきゃ後悔してしまうから。失いたくない人を、何もせずに失うなんて嫌だ。


「それは俺のセリフだぞ」


参ったな、と苦笑いした飯田くん。すぐに真剣な表情に戻って、小さくため息をついた。



「俺は君のために戦う。街を、世界を守るのはヒーローの役目だ。しかし君を守ることが俺の使命なんだ」


こういうところがヒーローに相応しくないと言われるのだろうな、と目を伏せる飯田くん。私は何も言えなかった。嬉しいと手放しに喜ぶことも、ダメだと真っ向から否定することも、できない。


「わかった、じゃあ、こうしようよ」


私たちがヒーローになったら、市民を守るために戦わなければいけない。そのとき目の前には敵がいて、背後にはその守るべき市民がいて。じゃあヒーローの背中は誰が守ってくれるっていうんだ。


「私が飯田くんの背中を守ってあげる。だから飯田くんは私の背中を守ってよ」


お互いに背中を預けあって、敵に立ち向かえばいい。ヒーローは商売敵。だけどただの敵じゃない。協力しあうべき仲間なんだ。


「そうしたら、みんな守れるでしょ」


とてもいい案だと、優しくうなずいた。飯田くんの背中を狙うやつは私がぶちのめしちゃうから。飯田くんは安心して私に背中を預けてね。



「だから、絶対ヒーローになってよね!」
「水無月君こそ!うっかりヒーロー認定試験に落ちたりしないように!」



そもそもヒーローになれなかったら元も子もない。笑いあって歩みを進めた。


未来なんて不確定なことばかりだけど、不思議と飯田くんと離れることは想像していなかった。できなかったんだ、飯田くんが居ないなんて、そんなこと。

これからどうなるか分からない。でもたぶん私から別れを告げるようなことはないように思う。



「約束だよ」


繋いだ手にぎゅっと力を込めた。ウサギのストラップについた鈴が、チリンチリンと返事をするように鳴っていた。





──地獄への道は善意で舗装されている。


(でも、貴方の道は地獄へは続かない。そして、私の道も!)





fin.

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