ひどい病気には思い切った処置を。

□初見の外国車たち。
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「It is cute.」
「レアリィ?」
「Yeah.」



私はスマホで実家にいる愛犬の写真をレノックスさんに見せていた。うるさいトイプードルだけど、やっぱり可愛い。嘘かもしれないけどレノックスさんもキュートって言ってくれた。

レノックスさんは自分のケータイを操作し、何かを見せてきた。



「My daughter.」
「ドーター?」
『娘だ』
「娘さん! 可愛い! キュート! ベリーキュート!」
「Thank you.」



こんな状況になってかれこれ二時間。最初は混乱した。もはや錯乱に近かった。背の高いハンサムな方は突然金属の塊になるし、変な別の金属と戦うし。数年住み続けた家は半壊で、家具も何もかもがめちゃくちゃ。控えめに言って泣いた。

家を直すにはお金がかかる。ぶっちゃけそんな収入はない。生きてるのが不思議なくらいだから。どうせこんな田舎に居たって仕方がないのだ、と、私は何も考えずに彼らについていくことにしたのだった。


こんな田舎にと言っても、ご老人たちは私のことを孫のように大切にしてくれていた。愛着があるのだ、この土地に。だから近くの住宅を回って、車の点検と整備をして、それから発った。




金属の塊はトランスフォーマーという生命体で、いわゆる宇宙人なんだそうだ。今乗っている車だって彼が擬態したもので、人間が運転しなくても彼の意のままに動く。そういえば、と言ってはあまりにも軽いが、半年前に出会った奇妙な車は、オプティマスさんだった。そのときのことがきっかけで、こうして私の元に来てくれたそうだ。


私が見た青いコートの男性もオプティマスさん。少し前にヒューマンモードというのを搭載して、より人間の世界に馴染み始めたとか。言語についても問題はなく、インターネットで学習さえすればすぐに話せてしまうそうだ。だからレノックスさんは英語で、オプティマスさんは日本語だったのだ。

トランスフォーマーって、ちょっとハイスペックすぎない? おかげでレノックスさんの言葉を訳してもらえているんだけど。


彼らの拠点では英語が基本言語だそうだ。アメリカ軍と協力しているとかなんとか……。だから私も英語を覚えなければならないだろう。あちらこちらで訳の分からない英語が飛び交うなんてぞっとする。


ため息をついて目を閉じた。軽い気持ちでついてきてしまった。修理業は嫌いじゃないし、未知の金属生命体と関われるのは探究心をくすぐられる。だけどそれ以上に大変すぎるじゃないか。知らない人しか居ない場所で過ごしたり。あの家を諦めるにしても、どこか別の場所で暮らしてみる方が程よい気分転換になって良かったんじゃないだろうか。


『眠いのなら寝るといい。到着には時間がかかる』


低くて耳障りの良い声。私は頷いて、温かなシートに身を委ねた。







私を呼ぶ声がして目が覚めた。オプティマスさんが『もうついたぞ』と少し笑いながら言うので、どうして笑うのかムッとしたけれど、顔に寝ていた痕がついているからだと知る。あぁこれは恥ずかしい。


「仲間たちが来ている。良ければ挨拶にでも行かないか」
「な、仲間……その方もトランスフォーマー、なんですか?」
「あぁ」


私が降りると同時に人間の姿になったオプティマスさん。いや、ここじゃ司令官って呼んだ方がいいのだろうか。名前で呼んだら馴れ馴れしいし……ここの人々に目をつけられたら困る。


「彼らが仲間だ」
「うわぁ、かっこいい!」


案内された場所には車がたくさんあった。ほとんどがアメリカ産の車で、どれもこれも初めて見るものばかり。ソルスティス、トップキック、カマロやコルベットに、かの有名なフェラーリ……主に車を相手とする私にとってここは天国に近い。


「こんなに外車がいっぱいなんて……幸せ……」
『そりゃあ良かった』
「ぅわっ」


間近で見ていたソルスティスから声が。聞こえた。反射的に離れると、それはどんどん変形して人に似た形になっていく。私の身長をゆうに超えるものの、司令官よりは小柄。彼は着けているバイザーを上げると、ほんの少し笑った。


『俺はジャズ。よろしく』
「水無月咲涼です。よ、よろしくお願いします」


ジャズさんは今度は人間の姿へと変わり、前髪を邪魔くさそうに掻きあげた。サラサラの銀髪が綺麗でつい見とれてしまうと、悪戯っぽく口角を上げるものだから、思わず顔を赤くしてしまった。

気にした様子のない彼は車を指さして名前を述べていく。アイアンハイドさん、バンブルビーさん、サイドスワイプさんにディーノさん……他にも居るそうだが、今は手が外せないとのこと。たかだか修理業の人間に、わざわざ集まってもらうこともない。


「さぁ、次は君の部屋に案内しよう。その次は食堂。構わないか?」
「食堂……あ! お腹すきました」
「では行こうか」


残る方々に軽くお辞儀をして、オプティマスさんの後に続いた。ご飯たのしみ。何があるんだろう。







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