ひどい病気には思い切った処置を。

□軍医とツインズ。
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「初めまして、水無月咲涼です。メカニックです」
「ラチェット、軍医だ。……ところでお嬢さん、昼食はカレーかな?」
「に、においますか……?」


大きな大きな医務室にやってきた。軍医って、トランスフォーマーたちの軍医ね、なるほど。てっきり人間の方かと。だって私、人間だし……。


「いいや、私は他より少し嗅覚センサーが鋭くてね、ほんの些細な匂いでも感じ取ることができるのさ」


フォローになっていない気がするけど、気にしないことにした。生きてるんだ、カレーぐらい食べる。


なぜ私がトランスフォーマーの医務室に案内されたのかというと、ラチェットさん曰く、メカニックとしての腕を医学にも生かして欲しい、とのこと。彼は半年前の件を知っているらしく、だからこそそんな話になったそうだ。

トランスフォーマーの体のことは分からないけど、少なくとも以前のように車の形状になってくれれば見ることは出来る。まぁ、彼らが擬態している車がエンジントラブルだとか燃料切れを起こすのかとか言うと、きっとそうではないのだろうけど……。

あれ、結局のところ私ってどう役に立つんだろ?


「私でいいんでしょうか」
「君を指名したのはオプティマスだ。彼の判断に誤りはない。今回は少しばかり事情はあるがね」


ラチェットさんは、気持ちばかりにかけているという眼鏡を上げ、微笑んだ。黒縁メガネが似合っている。



「私情と言うべきかな?」
「ラチェット、余計なことを言うんじゃない。お前達はどうしてそうペラペラと……」
「お説教が始まってしまったようだ」


こっそり耳打ちをしてくるラチェットさん。その顔に困った様子はなく、むしろ楽しげに見えた。初めは気難しそうな人だと思ったけれど、案外面白そうだ。少なくとも否定的な雰囲気はない。お手伝いをすることがあるのなら、友好的な関係を築きたいところ。


「司令官はいつもこうなんですか?」
「日常茶飯事さ。特にツインズなんかは毎日のように……」
「ラチェット!」
「聞いている」


あんなに温和そうなオプティマスさんがああやってお説教なんてすることもあるのだと思うと、なんだかお父さんみたいに見えてきた。ツインズという人がどんな方なのかは分からないけれど、きっとやんちゃな人なんだろう。お父さんに怒られるこども……そんな図を想像してしまう。


「オプティマスさん、あの、ツインズさんに、会ってみたいです」
「……分かった」


ラチェットさんに「話は終わっていないぞ」と告げ、歩き出したオプティマスさん。ラチェットさんは困ったように肩をすくめて笑った。それはもう愉快そうに。オプティマスさんがわざわざ説教をしに来るところを想像し、ご愁傷さまです、と心の中で呟いた。

彼が軽く手を振ってくれたので、お返しに思いっきり振っておいた。









『Wow! Who is this!?』(わぉ! コイツ誰!?)

『She is new member. She say "want to meet twins." You be quiet. With it, She can't speak English. So, Speak Japanese, OK?』(彼女は新しいメンバーだ。彼女が『ツインズに会いたい』と言った。お前達は静かにするんだぞ。それから、彼女は英語が話せない。だから日本語を話せ、分かったな?)

『OK!』


赤と緑の鮮やかなふたり。彼らがツインズのようだ。英語で何か喋っているけれどさっぱり分からない。


『Hey! I'm Skids!』(よぉ! 俺スキッズ!)

『Skids! You don't get anything!』
(スキッズ! お前は何も分かってないな!)

『Sorry!』(ごめんなさい!)


スキッズ、という名前なのは分かった。私だって学校には通っていたんだ。アイムぐらいは分かる。ドゥもキャンも分かる。ただ使えるかどうかはまた別問題なだけ!


「えっと、スキッズと?」
『……Me? I'm Madflap!』
「マッドフラップ?」
『Yes!』


緑の彼がオプティマスさんにお説教(たぶん)されている間に名前を聞いた。今日だけで沢山の名前を聞いたけれど、正直覚えられている自信はない。

スキッズとマッドフラップ。二人合わせてツインズと言うくらいだから、彼らだけ特別に合体とかしたりするんだろうか。片方は武器にも変形しちゃったりするんだろうか。ロマンがある。


『Get on my hand!』(俺の手に乗れよ!)
「わっ!」


体を掴まれ手に乗せられた。視界が高い。地面からは一メートルちょっとくらいしかないけど、ここから落ちたらと思うと怖い。

オプティマスさんもそうだったが、金属というだけあって、彼の皮膚(というか装甲だろうか)は冷たかった。彼らに体温というものは存在しないのだろうか。いや、仮にあったとしてもすぐに冷めてしまいそう。だって金属だから、場合にもよるだろうけど冷めやすくて温まりやすいはずだもの。


「寒くないの?死んだりしない?大丈夫?」


マッドフラップは少し首をひねってから『大丈夫だぜ!』と言った。


「日本語だ!」
『今学習した。咲涼のためだぜ』
「すごいねぇ、優しいねぇ、ありがとう!」







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